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【遺族をさらに苦しめる言葉】元気づけようとしないでください【家】#173

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「知らずに遺族を傷つけてしまう対応」です。

動画はこちらになります。

私は緩和ケアの一環で遺族外来をしています。そこで、周りの人からかけられた言葉で、とても傷ついたという遺族の話をよく聞きます。

けれども、その言葉は周りの人が傷つけようと思ってかけたものではなく、むしろ、力づけたいとか元気づけたいと思ってのものだったと私は思うのです。しかも、このようなことは非常によく起こることなのです。

もしかしたら、あなたも知らず知らずのうちにそんな言葉をかけてしまっているかもしれません。せっかく、遺族を思っての言葉なのにどうしてそうなってしまうのでしょうか?

今日は、どんな言葉や対応が遺族を傷つけてしまうのか、そして、遺族に対してどのように接すればいいのかについてお話します。

この記事は、近くに大切な人を亡くした人がいる方、遺族にどんな言葉をかけたらいいのかわからない方に向けてお話しますが、誰でもいつそのような状況になるかわかりませんので、できるだけ多くの方に観てほしい記事です。

今日もよろしくお願いします。


遺族に対応するときに大切なこと

もし、あなたの近くに、最近大事な方を亡くした人がいるとします。そんな人にどう声を掛ければよいでしょうか。

そうした、遺族に対してかける言葉がない、どう対応すればよいのかわからないと思う人は多いのではないでしょうか。でも何とか力づけたい、とも思いますよね。

ところが、そうした思いで掛けた言葉がけが、とても遺族を傷つけることがあるのです。

例えば、最近お子さんを亡くした会社の同僚が、1カ月ぶりに出社してきました。
あなたは彼にどう声を掛けようかと思っています。

「おそらく落ち込んでいるだろうな、でも大事な子どもを亡くして、お悔やみ申し上げます、なんて他人行儀すぎるかな。」と考えているとき、彼があなたのデスクに来ました。すると、彼の表情は意外に元気そうで明るかったのです。思わずあなたはほっとして、「元気そうで安心したよ。」と声を掛けました。

当然あなたは、彼を力づけようと思った声掛けだったと思います。しかし、この言葉がけが、彼をとても傷つけてしまったのです。なぜでしょうか。

多くの遺族は、とてもつらく寂しい思いを抱いています。でも、誰にもそのつらさを出せないとも思っています。また、本当はとてもつらいのに、元気な顔をしてしまう人もいます。先ほどの男性も、実はそんな方でした。

ですので、本当は全く元気がないのに「元気そうだね」と声を掛けられたことがとてもつらかった、と感じてしまったのです。あなたが良かれと思ってかけた言葉が遺族を傷つけてしまうことがある、ということをぜひ知ってください。後でその例について詳しくお話します。

それでは、そのような遺族の方々にどう接すればいいのでしょうか。

それは、一言で言うと「寄り添う」ということです。無理に力づけようとしなくてもいいのです。誠実に遺族の心に寄り添う態度や気持ちこそが大切なのです。


遺族の複雑な心境

まず皆さんに、大事な人を亡くしたばかりの遺族はどんな心境なのかを想像してみてほしいのです。

大事な人が亡くなると、多くの人は途方に暮れます。あるいは呆然とします。愕然とした気持ちにもなります。そしてしばらくすると、後悔の気持ちが出てくることもあります。

あの時あれをしておけばよかった。病気をなんで早く見つけられなかったんだ。あんなに早く亡くなるなら、もっとそばにいればよかった。もっと早く家に連れて帰れば、最期の時間を一緒に過ごせたのに。

私は、本当に多くの遺族の後悔を聞いてきました。

亡くなった人の部屋に入れない、いつまでも亡くなった時そのままにしているという人を何人も知っています。何年たっても遺品の片づけができない、という人も大勢います。

ご主人を亡くしたある女性は「夫を思い出すたびに泣いています。買い物している夫婦を見るとつらくなります。」と言いました。「仕事をしていると気が紛れて大丈夫なのですが、終わって家に帰ると、いつも一人で泣いています。」と奥さんを亡くしたある男性は私に言いました。

このように、多くの遺族は複雑な心境を抱えているのです。


遺族が傷つく言葉とその理由

それでは、多くの人が知らない遺族が傷つく代表的な言葉についてお話します。

1.「元気そうだね」

先ほども触れましたが、遺族で元気な顔をしている人の多くは、本当は元気ではありません。そして、「元気そうだね」と言われると、本当に多くの遺族がつらかったと言われます。

元気そうにしている遺族は、周りから「元気そうだね」と声を掛けられても仕方がないとも思っています。矛盾していますが、本人もそれはわかっています。でもつらいのです。複雑なのです。

そんな時は、「元気そうに見えるけど、無理してない?」とか、「心配なことがあったら相談してね。」といった、相手のことを気にかけていることが伝わるような言葉かけが良いと思います。

2.「どうして早く病気が見つからなかったのか」

「どうして病気が早く見つからなかったの?」「検診は行ってたの?」などという言葉も遺族は傷つきます。なぜなら、この言葉は、遺族は何百回も何千回も自問自答している言葉だからです。遺族自身が、自分に対して責めている言葉なのです。自分のつらさに、塩を塗られるような感じと言えばよいかもしれません。

3.「もう介護しなくて良いですね」

大切な人が亡くなり、もう介護しなくて良くなったことは、確かに事実です。しかし、介護しなくていいということは大切な人がいなくなってしまったということを再認識することなのです。

この言葉は、場合によっては「亡くなってよかったね」と聞こえてしまうのです。自分の役割が無くなってしまったということを、改めて直面させられてしまうからつらいのです。

4.「あなたはまだマシ」

「あなたはまだマシ」というたぐいの言葉も遺族を傷つけます。慰めようとする言葉だと思いますが、大事な人を亡くしたつらさは、比べられるものではありません。その人のつらさは、その人自身のものだからです。

私は以前、90歳のお母さんを亡くした娘さんに「大往生ですね」と言ってしまったことがあります。すると娘さんは、「大往生なんかじゃありません。母にはもっともっと生きていてほしかったんです!」と言われたことがありました。お母さんと娘さんへのねぎらいの言葉のつもりが、娘さんを傷つけてしまったことを、多いに反省したことがあります。

5.「生活は大丈夫?」

「生活は大丈夫?」とか「経済的にやっていける?」などという言葉は、確かに心配している言葉ですが、プライベートに立ち入られたと思う言葉に聞こえる人もいます。興味本位に聞こえる場合もあるので気を付けましょう。

6「あなたのことはわかる」

「あなたのことはわかる」という言葉は、つい言いがちだと思います。しかし、先ほども言いましたが、喪失体験はその人自身のものですので、他人にはわかりません。私も、遺族と接するときにはいつも気を付けています。

「私はあなたではないので、本当のあなたの気持ちはわかりません。だからこそあなたのつらい気持ちを知りたいのです。ぜひ教えてください。」という思いで、遺族の方のお話を聴くように心がけています。

以上、遺族が傷つく言葉について話してきました。良かれと思った言葉が、逆に遺族を傷つけてしまうことがあることを、ぜひ知ってください。


遺族にはこのように接しよう

「じゃあ、どうしたらいいの?何を言っても傷つけるのなら、何もしない方がいいの?」と思う人もいると思います。でも、あなたにできることはあります。

まず大事なことは、元気づけようと思わなくてよいということです。何か気の利いたアドバイスなどはしなくても良いのです。

ただ聴くことです。具体的な言葉よりも、相手を思いやる態度や気持ちが大事なのです。良いとか悪いとかジャッジせずに、ひたすら聴いてあげてください。

大事なことは誠実な態度で接すること。そして気持ちが出てきたら受け取ること。気持ちを打ち明けてくれてありがとう。そんな気持ちで遺族の思いを受け取ってください。

場合によっては言葉もいらないかもしれません。黙って傍にいてあげるだけで良いこともあります。黙って傍にいることが癒しになるのです。

「傍にいてくれて、何も言わず、私が泣いたら手を取って一緒に泣いてくれた。これで私は救われた。」と私に打ち明けてくれた遺族がいました。

また、特別な何かをするのではなく、いつも通りに接してほしいと思っている遺族もいます。

孫から「おばあちゃん元気?今日も元気に部活のバスケに行ったよ」というラインが来た、そのことで涙が出るほどうれしかったと言った遺族の方がいました。

お隣さんが、いつも通り夕飯のおすそ分けを持ってきてくれた、その心遣いがうれしかった、と言った遺族もいました。

言葉ではない「あなたのことを気にかけています」というメッセージが、遺族には伝わるのだと思います。言葉でなく、寄り添うという態度が大事なのだと思います。

以上、遺族が傷つく言葉はどのようなものか、そしてあなたにできる遺族への援助について話してまいりました。この記事があなたのお役に立てれば幸いです。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

『遺族の方に気付かずに言ってしまい、傷つけてしまう言葉は実はたくさんあります。力づけるための言葉は必要ありません。寄り添う態度こそが必要なのです。』

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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Dr.Tosh /四宮敏章
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