
【医】がん患者さんの気持ちのつらさに対する、治療医ができる基本的緩和ケア5つ #60
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「患者さんの気持ちのつらさ②:対処の仕方」です。
動画はこちらです。
がん患者さんは、多かれ少なかれ気持ちのつらさを抱えています。でも、その中で専門家に紹介しなければいけないケースを見逃すと、うつや適応障害になったり、最悪の場合、自殺に至るケースもあります。
前回の記事では、気持ちのつらさを持ったがん患者さんの中で、専門的緩和ケアに紹介が必要な患者さんの見つけ方についてお話しました。
今回は、対処が必要な患者さんに対して、治療医の先生ができる基本的緩和ケアの方法、専門的緩和ケアへの紹介の方法についてお話します。
本日もよろしくお願いいたします。
5つの対処法
まず、治療医の先生に知っていただきたいのですが、緩和ケアには2種類あります。それは、基本的緩和ケアと専門的緩和ケアです。
専門的緩和ケアは私たち緩和ケアチームが行います。そして、基本的緩和ケアはすべての治療医の先生が担当します。患者さんの気持ちのつらさを見つけ、対処する。これが治療医の先生ができる基本的緩和ケアなのです。
主治医の先生が、がん患者さんの気持ちのつらさに対して、できる基本的緩和ケアは、大きく分けて5つあります。
1. 治療の見込みを伝える
2. 身体的症状緩和
3. 精神的サポート
4. 薬物療法
5. 専門家へのコンサルテーション
この5点です。
「何だ、そんな簡単なことか」と思われるかもしれませんが、実は、それぞれにコツがあります。そして、経験上、主治医の先生が、1〜4までをきちんとできれば、患者さんの気持ちのつらさは8割がた解消できます。
この記事では、基本的緩和ケアのコツをご紹介したいと思います。
1. 治療の見込みを伝える
それでは、患者さんの気持ちのつらさの対処について具体的にお話します。
前回の記事でお話ししたと思いますが、患者さんの気持ちのつらさが強くなるのは、がんが進行、再発した時が多いのです。
主治医の先生にお願いしたいことがあります。まず、治療の今後の見込みについてしっかりと患者さんにお伝えしてください。そして、治療の今後の見込みについて、患者さんに理解してもらってください。
これ以上、積極的抗がん治療が難しい場合でも、患者さんに、そのことをお伝えください。今後のことが分からなかったり、あいまいだと、患者さんの不安は大きくなるからです。
もし、患者さんに希死念慮などがあり、対応が難しいと思う場合は、専門家である、緩和ケアチーム、心療内科、精神科に相談してください。
2. 身体的症状緩和
疼痛、呼吸困難、全身倦怠感などの身体的苦痛も、気持ちのつらさの原因になります。身体的苦痛には、しっかりとした症状緩和が必要です。
基本的緩和ケアとしての身体的な症状緩和は、主治医のあなたがしてあげてください。もし分からない場合は、緩和ケアチームに相談してください。
治療の見込みを伝える。
症状緩和をしっかりと行う。
以上2点の対処だけでも、気持ちのつらさは、ずいぶん和らぎます。
3. 精神的サポート
精神的なサポートとして、私が1番重要と思っていることは、傾聴です。
傾聴とは、患者さんがつらいと思っていることを、しっかり聴いて、受け取り、そしてそのことを受け取りましたよ、と相手に返すこと、いわば言葉のキャッチボールです。その行為を繰り返すことで、「ああ、この人は私のつらさをわかってくれている。」と患者さんは思います。
実は、それだけで、人は気持ちが癒されます。これを心理学用語で、共感と言います。患者さんのつらさを理解して共感すること、これが大事な精神的サポートです。
精神的なサポートを患者さんに行う場合、反復、相槌、沈黙などが、コミュニケーションスキルとして有効です。このコミュニケーションスキルは、実際見てみないと少し分かりにくいかもしれませんが、ここでは詳しく説明はしません。いずれ、このコミュニケーションスキルについて詳しく解説したいと思っています。
社会的な苦しみも、精神的な苦しみに繋がるので、サポートが必要です。生活に対する不安は、患者さんの気持ちのつらさを悪化させます。そんな時には、介護保険、場合によっては生活保護などの社会資源の利用が可能です。病院であれば、ソーシャルワーカーが担当してくれますので、主治医の先生から依頼、指示をしてください。
4. 薬物療法
気持ちのつらさに対する薬物療法についてお話します。
私たち、心療内科医、精神科医は気持ちのつらさに対しては、一般的に、抗不安薬、抗うつ薬といった向精神薬を用います。
私は、デパスなどのベンゾジアゼピン系の抗不安薬は定期的には使いません。長期に使うと、依存を起こしたり、せん妄の原因になるからです。抗不安薬なら、私はロラゼパムを頓服で使います。
また、睡眠薬としては、トラゾドンが良いと思います。
四環系抗うつ薬ですが、実は抗うつ効果は少なくて、抗ヒスタミン効果があり、熟睡感が得られます。抗コリン作用は、ほとんどないので、せん妄は起こしません。
抗うつ薬としては、ミルタザピンを良く使用します。トラゾドンから作られた薬で、抗うつ効果もあり、さらに抗ヒスタミン効果で良く寝られます。ミルタザピンは、飲み始めは、眠気が翌朝に持ち越すことがあります。しかし、1週間くらいで慣れてきますので、患者さんには前もってそのことを説明してください。
もし、どういう薬を使えばいいのかがわからない時、または、薬を使っても良くならない時は、ぜひ、緩和ケアチーム、心療内科、精神科などの専門家に相談してください。
5. 専門家へのコンサルテーション
最後に、主治医のあなたが、患者さんの気持ちのつらさを、緩和ケアチームや、心療内科、精神科などの、専門家に、いつ相談すればよいかのポイントについてお話します。
ポイントは3つです。
1つ目は、前回の記事で話した2つの方法で、専門的緩和ケアが必要だと判断した時。
2つ目は、気持ちのつらさに対する薬物療法が分からない場合。
3つ目は、希死念慮がある場合です。
希死念慮があると思ったら、必ず専門家に紹介してください。希死念慮については、次回の記事で取り扱います。
あなたの病院に緩和ケアチームがある場合は、緩和ケアチームに患者さんを紹介してください。そのチームの精神担当医が対応してくれるでしょう。
また、緩和ケアチームが無くて、心療内科や精神科がある場合は、そこに紹介してください。ただ、心療内科や精神科には、患者さんが受診したくないというケースもあります。精神病だと思われるのが嫌だと思っていたり、自分のこころが弱いと思われたくないと思っている人もいいます。できれば、それは誤解であることをお話して、納得していただき、受診するようお勧めいただければ幸いです。
あなたの病院に、緩和ケアチームや、精神科、心療内科が無い場合、日本サイコオンコロジー学会のHPをご覧いただき、そこであなたの地域の登録精神腫瘍医を探してください。
登録精神腫瘍医は治療医からの相談を積極的に受け入れる用意のある先生方です。彼らは必ずあなたの力になってくれます。リンクを貼っておきますので、参考になさってください。
以上、患者さんが訴える気持ちのつらさに対して、主治医ができる5つの対処について話してまいりました。
もう一度まとめます。
1. 治療の見込みを伝える
2. 身体的症状緩和
3. 精神的サポート
4. 薬物療法
5. 専門家へのコンサルテーション
この5点です。
あなたができる対処を、ぜひとも、患者さん、ご家族のためにしてあげてください。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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