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鎮痛補助薬を使ったがんの神経障害性疼痛に対する具体的なアプローチについて【医】#17
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「がんの神経障害性疼痛への私のアプローチ」です。
動画はこちらになります。
以前ピース研修会で「がんの神経障害性疼痛の時にタリージェ、サインバルタを具体的にどのように使うのですか?」と質問を受けました。
確かにがんの神経障害性疼痛の緩和は難渋することも事実です。実は、がんの神経障害性疼痛に鎮痛補助薬を使うときには、様々なコツがあります。
今日は、がんの神経障害性疼痛に対して、どのように鎮痛補助薬を使うのかについて、私の方法を具体的にお話します。
この記事を見ることで、がんの神経障害性疼痛に自信をもって対処できるようになりますので、ぜひ最後までご覧ください。
今日もよろしくお願いします。
がんの神経障害性疼痛にどう対処するか
「がんの神経障害性疼痛に、タリージェやサインバルタを使ってみたけれど、あまり効果を感じない」という先生方の声をよく聞きます。
タリージェ、あるいはリリカといった末梢性神経障害性疼痛薬や、サインバルタといった抗うつ薬は、神経障害性疼痛の第1選択薬として、ペインクリニック学会のガイドラインでも推奨されているので、まず使うべき薬剤ではあると思います。しかし、すべてのケースで効くわけではないのです。
タリージェ、サインバルタが効くかどうかには個人差があり、使ってみないとわからないところがあるのです。私の臨床的な実感としては、4~5割くらいの人に効くといったところでしょうか。
がん性疼痛を和らげるには、鎮痛薬である消炎鎮痛薬とオピオイドが用いられます。ところが、がん性疼痛の中でも神経障害性疼痛は、鎮痛薬が効きにくいのです。そのために、鎮痛薬を補うという意味で、鎮痛補助薬を一緒に使うことが必要となってきます。
実は鎮痛補助薬にもいろいろあります。
先ほど述べた末梢性神経障害性疼痛薬であるリリカ、タリージェや、サインバルタに代表される抗うつ薬、さらにステロイドも鎮痛補助薬です。また、キシロカインも鎮痛補助薬として、点滴で私はよく使います。
ケタミンという麻酔薬も鎮痛補助薬の一つですが、眠気などの副作用が強く、日本では麻薬扱いとなっています。キシロカインやケタミンを使う場合、専門的緩和ケアに当たりますので、緩和ケア医などの専門家に教えてもらってから使ってください。
また、神経障害性疼痛の多くは難治性なので、薬剤だけでは取り去ることが難しいケースも多いのが現状です。ところが、他の治療法も組み合わせることで良くなるケースも多いです。
具体的には、放射線照射、神経ブロック、IVRなどによる治療です。これらの治療で実際によくなった人をたくさん知っています。これらも専門的緩和ケアになります。
基本的緩和ケアと専門的緩和ケアの区別について、過去の記事でも話してきました。
神経障害性疼痛における基本的緩和ケアとしては、リリカ、タリージェ、サインバルタを使えるようになってもらいたい、と思っています。そして、それで効果がなければ、専門的緩和ケアが必要だと考え、コンサルトを考えてください。
神経障害性疼痛の緩和のコツ
神経障害性疼痛の緩和のコツについてお話したいと思います。まず、がんの神経障害性疼痛が起こる原因は、がんが神経を圧迫したり浸潤することです。ですので、神経障害性疼痛のみが起こることは少なく、体性痛や内臓痛に併存することが多いのです。
通常の鎮痛薬である、消炎鎮痛薬やオピオイドも一緒に使う必要があります。ポイントは、必ず通常の鎮痛薬を使ったうえで鎮痛補助薬を使うことです。
私は基本的に鎮痛補助薬を先に使いません。順番がとても大事なのです。
鎮痛補助薬は、ある程度量を使わないと効果がわかりません。後で詳しく述べますが、副作用などで使えない場合以外は、しっかりとした量を使ってください。
私はこう使う:リリカ・タリージェ、サインバルタ
まず、リリカ・タリージェ、サインバルタのメカニズムからお話します。
神経が障害されると、神経細胞から痛みを起こす要因になる、神経伝達物資が出されます。タリージェとリリカはその物質の放出を抑えることで、鎮痛効果をあらわします。
次に、サインバルタのメカニズムをお話します。生体は通常の痛みであると、末梢から脳に痛みの信号が送られ、痛みを感じます。
一方、過剰な痛みを感じると、脳幹部から電気信号が送られ、脊髄内で痛みをブロックするシステムがあることが判ってきました。これを、下行性疼痛抑制系といいますが、このシステムを強める効果が、サインバルタをはじめとする抗うつ薬にはあります。とりわけ、サインバルタにはこの効果が強いので、神経障害性疼痛に用いられます。
次に具体的な使用方法についてお話します。リリカとタリージェはほぼ同じ効果のある薬剤ですので、どちらを使っても構わないと思います。ただ、リリカはタリージェに比べ、ふらつきや眠気の頻度が高いと思います。
リリカは中枢のレセプターにも作用するのに対し、タリージェは末梢にしか作用しないためです。したがって、現在私はタリージェを好んで使っていますが、副作用や効果に差はないという緩和ケア医もいます。どちらを使うかに決まりはありませんので、使いやすいほうを選択してください。
使用法のコツは、最初は少量から使い始めることです。最初に少量から使うのは、眠気などの副作用がないかを確かめるためです。もう1つのコツは、副作用が強く出なければ、最大量まで使うことです。
タリージェですと、成人男子の場合、寝前に5㎎錠1T内服からスタートして、副作用がないか確かめます。この時点で翌日に眠気が残ったり、夜中にふらついたりする人は副作用があると判断し、他の薬に変えます。
副作用に問題がなければ数日後に5㎎錠2T分2朝夕に増量します。これが最小量と考えてください。これで、効果が出る人もいますが、まだ効果が十分でない人は1週間後に倍量にします。5㎎錠4T分2朝夕か、10㎎錠2T分2朝夕を処方します。
さらに不十分で、副作用に問題なければ、30㎎/日まで増量します。腎機能障害がある人には、最大量の半分の量までにしてください。
副作用は、先ほども言った、ふらつきや眠気です。リリカが発売された当時、メーカーの指示通り、75㎎錠を2T朝夕で開始した患者さんが、意識消失発作を起こして転倒し、硬膜外血腫になったことがありました。また、浮腫や体重増加にも気を付けてください。これらが起こるということは腎障害が起こっている可能性があるということだからです。
私は鎮痛補助薬は、サインバルタよりもタリージェ・リリカを最初に使うことが多いです。その理由の1つは効果が早くわかるからです。もう1つは「自分はうつ病でもないのになぜ抗うつ薬を飲まないといけないのか」という患者さんの心理的抵抗があるからです。
サインバルタは、タリージェ・リリカのみでは効果が少ないときに併用します。サインバルタ単独で使うのではなく、リリカ・タリージェと併用するということがコツです。サインバルタカプセル20㎎カプセル1Cを朝食後内服から始めます。夜に飲むと眠れなくなる患者さんがいるからです。逆に眠気が出てくる人もいるので、その場合は夕食後にします。
副作用は、嘔気、口喝、尿閉などの抗コリン作用がありますので、これらが強く出たときは中止します。
1~2週間後、副作用がなければ、2Cに増量します。2C以上飲むことがポイントです。3Cまで増量できますが、ほとんどの場合、2Cで十分です。でも、2Cでは効果が十分でないことが多いです。
オピオイドと併用するときは、抗コリン作用の少ない、リフレックスを使うこともありますが、神経障害性疼痛を和らげる効果は、サインバルタよりは弱い印象です。
以上これらの薬剤を使っても効果が乏しいと思われた時には、遠慮なく緩和ケアチームなどに紹介していただければと思います。
薬物以外の治療法
最後に、薬だけでは十分な緩和ができない時の方法についてお話します。神経ブロック、放射線照射、IVRの方法です。
神経ブロックは麻酔科医や、整形外科医が主として行います。周りにできる先生がいる場合には、お願いしてみたら良いと思います。出血傾向がなく、よほどの終末期でない限り試す価値はあります。
放射線照射も骨転移などにはとても良い適応です。常に神経障害性疼痛の患者さんには、放射線照射ができないか、考えておく必要があるでしょう。
最後のIVRは最近注目されている治療法です。少しずつ広まってはいますが、できる施設は限られています。お近くの放射線科医にお尋ねください。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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