【前を向くために】自分を責める前にこれを見てください(がん,緩和ケア)
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「自分で自分を癒そう」です。今日はがんで大事な方を亡くされた、遺族の方にお話しします。
動画はこちらになります。
私は、遺族外来の診療場面や、私のYouTubeのコメント欄で、遺族の方の後悔の気持ちをよく聞きます。
以前の記事でも、遺族の後悔についてお話しましたが
今回は遺族の後悔の気持ちを自分自身で癒すにはどうすればよいか、についてお話したいと思います。
この記事の中で具体的な方法もお話しますのでぜひ最後までご覧ください。今日もよろしくお願いします。
遺族の後悔を癒すために
多くの遺族の方々は、患者さんにしてあげられなかったことを思い出して後悔します。
あのときもっと早くがんを見つけていれば、患者さんはもっと長く生きられたのではないか、とか。
もっと患者さんと一緒にいればよかった、あんなに早く亡くなるなんて思わなかった。
私が悪かったんだと、ご自分を責めてしまう遺族の方も多いのではないでしょうか。
私は遺族外来で遺族の方のお話を聞きますが、やはり多くの遺族は、後悔の気持ちを出されます。
「父を在宅で介護しようと介護休暇を取って、最期まで家では過ごせました。でも、父は家に帰ってからはずっと寝たきりで、結局父の行きたがっていた旅行にも連れて行ってやれなかった。」と後悔している方もいました。
「妻を在宅で見ていた時、急に呼吸困難になって妻はそのまま亡くなってしまったんです。もっと早く気が付いて、妻を病院に連れて行けばよかった。私のせいで、妻を死なせてしまった。」と泣きながら訴えるご主人もいました。
こんな男性もいました。
「最期は自宅でと母は言っていました。でも私の仕事が忙しく仕事が休めませんでした。そうこうしているうちに、母は急に状態が悪くなり、病院で亡くなってしまいました。コロナの影響もあり、誰も付き添いができずに、母をたった1人で逝かせてしまいました。私が仕事を辞めてでも、母に付き添って家で見てあげればよかった。」と彼は自分を責めていました。
多くの遺族はこのように、してあげたかったのにできなかったことを、様々に思い出して後悔しています。5年も10年も苦しんでいる方も少なくありません。
しかし落ち着いて考えてみてください。そんな後悔をしている遺族の方は、実は患者さんにしてあげられたこともたくさんあったはずです。してあげたことに焦点を当て、その事実を正しく見てください。
それに加え、できなかったことも、その事実を客観的に見てください。
点滴をしていたために、外出ができなかった。
がんの病状が急に悪化したため、亡くなってしまった。
仕事を休みたくても休めなかったので、患者さんは家に帰れなかった。
確かに、そのようなことはあります。しかしそれらは、仕方がなかったことかもしれません。できなかったことは、できなかったこととして、あきらめることも必要です。そしてあなたがしてあげられたことをもう一度みてください。あなたがしてきたことは、実は意外と多いかもしれません。
したことも、しなかったことも、その事実を正しく見て、頑張った自分を褒めてあげてください。
そうすることで、あなたがあなた自身を癒すことができるのです。
できたことを認める
それでは具体的に、できたこととできなかったことを見ていきましょう。
まずはできたことです。
できたことを客観的に見るために、まずはそれらをリストアップして書きだしてみましょう。
介護休暇を取って介護した。
行きたがっていたお花見に行った。
病院からは難しいと言われたけれど、在宅に戻った。
特別なイベントだけでなく、当たり前だと思っていたことも書き出してみてください。
好きなものを買ってきて、病院に差し入れした。
お風呂で背中を洗ってあげた。
痛いという部分をマッサージした。
寝られないと言われた時に、寝られるまで隣にいてあげた。
書きだしてみると、たくさん出てくるはずです。そしてその時、自分がどんな気持ちだったのかを思い出して、感じてみてください。あなたのその時の気持ちが思い出されてきませんか。
それはあなたが、あなたの大事な人を愛している、という気持ちではないですか。あなたのその愛の気持ちを、しっかりと感じてあげましょう。
できなかったことを認める
次に、できなかったこと、してあげられなかったことを客観的に書いてみましょう。
足腰が弱ってベッドから起き上がれず、外出ができなかったので、好きな温泉に連れていけなかった。
急に呼吸困難の症状が出てきて、病院に連れていく前に亡くなってしまった。
腸閉塞で、好きなものが食べられず、亡くなるまで点滴がやめられなかった。
仕事を休めず、家に連れて帰れなかった。
様々なことがあるでしょう。しかし、あなたには、どうしようもなかったこともあるのではないでしょうか。
終末期には、様々な症状が出現します。
痩せてきて足が弱ること。
食事ができなくなること
ベッド上の生活が多くなること。
せん妄が起こって、認知機能が低下すること。
さらには、終末期には「急変」が起こります。
突発的な病状の変化です。そのことで、命が危険になることはとても多いことなのです。がんの終末期の急変は、医療者にも予測できないことがあります。
2番目の男性の奥さんはこの「急変」により、亡くなったといえます。これは本当に仕方のないことで、たとえ病院にいたところで、防げなかった可能性が高かったと思います。
亡くなる前は誰しもそのような状態になるのです。起こる様々な症状は、避けることができないという事実を、認めることが必要です。
また、医学的な処置を優先しなければいけない場合もあります。
例えば、がんがお腹の中に広がると、腸閉塞といって消化管がいろいろな箇所で詰まってしまうことがあります。その場合、消化管に詰まったものを出す管を、口から胃に入れなければなりませんし、点滴などによる治療も必要です。そのため、好きなところに行けないことも起こってくるでしょう。
患者さんの苦しみをとってあげる症状緩和を、優先しなければいけないこともあるのです。
またご家族の方は、仕事を休めない人も多くいると思います。
仕事を休んだり、辞めたりしてまで、大事な人の介護をしたかったかもしれません。しかし、仕事上の責任がある人もいますし、また、それをしてしまうと、自分や残された家族の生活が立ち行かなくなることもあります。
おそらく、亡くなったあなたの大事な人も、そのことは望んではないでしょう。それらは決して、あなたのせいではないという事実を受け入れましょう。
繰り返しますが、できなかったことにも理由があります。それを明らかにしてください。
もし、終末期の身体の変化や医学的なことでわからないことがあれば、主治医に聞いてください。
諦めるは明らめる
状況を考えて、できないことを諦めることも必要なことです。
仏教用語で諦める念と書いて「諦念」という言葉があります。
諦めるという言葉には現代ではマイナスなイメージがあるかもしれませんが、仏教では「本質を見極める」という意味になります。諦めることは、明らかにするということなのです。
できないことを諦めることは悪いことではないのです。
それでも自分を責めてしまう人もいるかもしれません。それは仏教的には「執着」と言います。覆水盆に返らず。執着を手放し、あなたを苦しみから解放してあげましょう。あなたの大事な人は、あの世であなたを見守ってくれています。
自分を許しましょう。
そして、できたことはできたとしっかり認め、大事な人にしてあげられた自分を自分で褒めてあげてください。このプロセスの中で、徐々に自分自身のつらい気持ちが楽になっていくでしょう。
これが自分自身を癒すということなのです。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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