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医師ひとりから始める神経障害性疼痛の緩和を緩和ケア医がお伝えします【医】#59
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「医師ひとりから始める神経障害性疼痛の緩和」です。
動画はこちらになります。
神経障害性疼痛の緩和については、以前の記事でもお話しました。
その記事では、神経障害性疼痛の緩和は、緩和ケア、麻酔科、放射線治療科などの、プロと協力して行うということをお話しました。しかし、そんなプロがいる時ばかりではありません。
周りに神経障害性疼痛の緩和のプロがいない場合、どうすればいいのか、困りますよね。神経障害性疼痛は緩和が難しいので、自分ひとりでは太刀打ちできない、と思ったとしても無理はありません。
しかし、医師ひとりからでも、神経障害性疼痛の緩和は不可能ではありません!
今日は、医師ひとりから始める神経障害性疼痛の緩和についてお話します。
この記事は、周りに神経障害性疼痛の緩和のプロがいなくて困っている医師、神経障害性疼痛の緩和を知りたい方に、見ていただきたい記事です。ぜひ最後までご覧ください。
今日もよろしくお願いします。
あなたにできる神経障害性疼痛の緩和
神経障害性疼痛は、難治性疼痛になりやすいがん性疼痛です。なぜなら、オピオイドのみでは取れない痛みだからです。
しかも1種類の薬だけでは効果がなく、違うタイプの薬を数種類使う必要があります。そして強い痛みが長時間続くので、疼痛閾値が下がり、痛みに敏感になるのです。すなわち、痛みの悪循環が起こりやすいと言えます。
したがって難治性疼痛である神経障害性疼痛は薬だけではなく、それ以外の様々な方法を組み合わせて治療する必要があります。
ですから、神経障害性疼痛は疼痛緩和の専門家がいる大学病院や、がん診療連携拠点病院で疼痛緩和の治療をすることが望ましいのです。
しかし、疼痛緩和のプロが少ない自分の病院で、難治性疼痛である神経障害性疼痛の緩和をするにはどうしたら良いでしょうか。
そういった場合、まず、自分の病院で用いることのできる資源を知る必要があります。
放射線治療科があるか、麻酔科・ペインクリニックがあるか、整形外科で椎体固定術をしてくれるか、IVR科があり疼痛緩和のためのIVRをしてくれるのか、などの確認をしましょう。そのような科があれば連携を取って神経障害性疼痛の緩和を行います。
でもそういった科が全くない病院もあるでしょう。そんな病院では、神経障害性疼痛の緩和はできないのでしょうか。そうではありません。やれる方法はあるのです。
今から、医師ひとりから始める疼痛緩和の方法をお話します。そのポイントは3つあります。
1. 疼痛緩和の薬剤の使い方
2. 精神症状のアセスメントと治療
3. 周りの資源を活用する
もし、あなたの病院に疼痛緩和のプロがいなくても、この3つのポイントを意識することで、神経障害性疼痛の緩和ができます。
それではひとつずつ説明していきます。
ポイント①薬剤の使い方
がん患者さんが神経障害性疼痛を訴える時、体性痛・内臓痛が併存することがほとんどです。さらに言えば、難治性の神経障害性疼痛には骨転移が絡むことが多いです。
ですので、神経障害性疼痛の緩和には、体性痛・内臓痛を緩和するためにオピオイドと複数の消炎鎮痛薬を組み合わせて使うことが重要です。
ではなぜオピオイドと複数の消炎鎮痛薬を組み合わるのでしょうか。それは作用機序が違うからです。
オピオイドは脳・脊髄内のμレセプターを介して鎮痛効果を発現します。また、消炎鎮痛薬であるNsaidsは、末梢の痛みの炎症部位に直接作用します。一方、同じ消炎鎮痛薬でも、アセトアミノフェンは、異なった中枢性レセプターに作用します。
それぞれ違う作用機序なのです。このように各々の鎮痛薬はそれぞれ作用部位が違うため、相乗効果が得られるのです。
また、神経障害性疼痛の緩和には、それ以外に鎮痛補助薬も必要です。鎮痛補助薬も数種類ありますが、これも各々作用部位が異なります。
オピオイドと消炎鎮痛薬を使ったうえで、鎮痛補助薬を加えることが神経障害性疼痛の緩和になるのです。まずはこのことを押さえてください。
鎮痛補助薬については過去の記事でお話していますので参考にしてください。
【薬剤の投与方法】
具体的な薬剤については後でお話しますが、まずは一番のポイントである、神経障害性疼痛に対する薬剤の投与方法についてお話します。投与方法についてはケースによって多少変わるのですが、今日は神経障害性疼痛を確実に取るための基本をお話します。
まず、薬剤は疼痛閾値が上がるまでは、点滴・注射・持続注射を使うことが重要です。なぜなら、血中濃度の立ち上がりが早く、効果発現もスピーディだからです。
さらに、オピオイド・消炎鎮痛薬は、持続注射を使うということもポイントです。その理由は、持続的な血中濃度を保つ必要があるからです。また、オピオイドはそれに加え、正確な量の設定が必要だからです。
鎮痛補助薬もできれば点滴で投与してほしいのですが、内服しかないものもあるので、その場合は内服で投与してください。
それ以外にも、不安・抑うつ・不眠も疼痛閾値を下げ、患者さんの痛みを増すので、抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬も必要時併用してください。これに関しては、安全を考えて、内服できるものは基本的に内服で投与してください。
【具体的な薬剤】
それでは、次に具体的な薬剤についてお話します。
1. オピオイド
オピオイドについては、私はヒドロモルフォン注、あるいはモルヒネ注を選択します。先程もお話したように、投与方法は持続静注、あるいは皮下注です。
私は基本的にヒドロモルフォンを第一選択薬として使っています。その理由は、私のいる病院は大学病院で、抗がん剤や抗菌薬など、多くの薬を使っている人が多いため、薬剤相互作用の少ないヒドロモルフォンが使いやすいからです。
また、ヒドロモルフォンは、呼吸困難症状にも有効で、モルヒネと違い腎機能が悪化したとしても安全に使えます。
病院によっては、ヒドロモルフォンを置いていないところも多いので、そのような場合モルヒネを使います。モルヒネを選ぶ理由は、呼吸困難症状にも有効だからです。
ただし、腎機能が悪化した場合には、モルヒネの代謝物であるM3G・M6Gが血中内に溜まってきて、それが眠気や呼吸抑制の原因になります。したがって、腎機能が悪化した場合にはモルヒネは使用しないか、使う場合は、眠気や呼吸抑制などの副作用が起こらないように、ゆっくりと量を増減してコントロールする必要があります。
2. 消炎鎮痛薬
先程、消炎鎮痛薬も、効果発現が早い点滴を用いるとお話しました。そのために、注射薬のNsaidsであるロピオン注®、そしてアセトアミノフェンはアセリオ注®を選択します。
ロピオン注®は皮下からは吸収できないので、静脈投与のみで使用してください。また、ロピオン注®は持続投与にすると血中濃度が一定になるので、さらに効果があります。Nsaidsであるロピオン注®は、腎機能障害がある場合は慎重に使う必要があるので、使い方がわからない場合は薬剤師に相談してみてください。
一方、アセリオ注®は100mlのボトルしかないので、持続投与ができず、点滴しかできません。一日3~4回の定期的な点滴をしてください。
3. 鎮痛補助薬
鎮痛補助薬としては2%キシロカイン注®、ステロイド点滴を私はよく使います。2%キシロカイン注®を使う理由は、がんの神経障害性疼痛の鎮痛効果が証明されており、ガイドラインにも記載されているからです。そして確かに効果を感じられます。
ただし、2%キシロカインは、不整脈治療薬、あるいは末梢神経麻酔薬なので、疼痛緩和としてのみ使う場合は、保険適応外使用となる点には注意してください。
血中濃度を安定にするために、2%キシロカインは持続投与をお勧めします。私はロピオン注®と混注して使うことが多いです。
また、ステロイドを使う理由は、がんによる炎症を抑え、疼痛を間接的に軽減する効果があるからです。その中でも、私はリンデロン®、あるいはデカドロン®を使います。なぜなら抗炎症効果が高く、作用時間が長いからです。
今までお話した、オピオイド・消炎鎮痛薬・鎮痛補助薬についての話は、初回の薬の投与についてですが、その後は経過観察しながら薬の量の調節が必要になります。
経過観察のポイントは、NRSの数値、表情、睡眠、ADL、食事量です。痛みが緩和できているかアセスメントしてください。疼痛が緩和でき、疼痛閾値が上がってきたら、注射から内服に投与方法を変えることができるかもしれません。
ポイント②精神症状のアセスメントと治療
今までは神経障害性疼痛を薬剤で緩和する時のお話をしてきましたが、疼痛が悪化すると、気持ちも当然つらくなります。
気持ちがつらくなると、疼痛閾値も下がり、さらに痛みが強く感じるようになります。したがって、気持ちのつらさのアセスメントを行なう必要があります。
気持ちのつらさのアセスメントするために、次の2つの質問をしてください。
①一日中気持ちが落ち込んでいませんか?
②好きだったことができなくなっていませんか?
このどちらかがあり、2週間以上続いていたら、気持のつらさが、かなりあると判断します。
その場合、向精神薬として抗不安薬あるいは抗うつ薬を使ってください。あなたがよく使う向精神薬があればそれでもいいのですが、私は抗うつ薬のミルタザピンの眠前投与を行います。私がミルタザピンを選ぶ理由は、効果発現が早く、相互作用が少なく、よく眠れるからです。
ミルタザピンの注意点としては、服用初期に朝まで眠気が残るという患者さんが多いことです。したがって、はじめは半錠から使い、1週間くらいで慣れてきたら1錠に増量してください。
ポイント③周りの資源を活用する
今回のテーマは、「医師ひとりから始める神経障害性疼痛の緩和」ですが、孤独にひとりで頑張る必要はありません。あなたの周りの医療者は、患者さんの痛みを取るために一緒にがんばってくれる人達です。
痛みが続いている患者さんは、疼痛閾値が低下しているので、疼痛閾値を上昇させるケアが必要です。疼痛緩和のプロだけではなく、薬剤師、看護師、理学療養士、心理士、MSW、さらにはアロマセラピストなどにも協力してもらい、患者さんの疼痛緩和をしてほしいと思います。
協力してもらうためには、彼らとしっかりとコミュニケーションを取り、一緒に患者さんの痛みを取ることが大事です。彼らは自分の専門分野の知識と技術を生かして、患者さんに貢献してくれます。
例えば、神経障害性疼痛で、車いすに移ることがとても苦しかった患者さんが、理学療法士に車いすの乗り方を指導してもらったら、痛くなく、とてもスムーズに移れるようになりました。
また、アロマセラピストによるマッサージはとても有効だったので、アロマセラピストのいない病院でも、看護師や理学療法士にマッサージをしてもらうことは、とてもいいことだと思います。
あなたの周りの医療者はあなたから声を掛けてくれることを待っています。あなたの身近にいるそれぞれの専門職に相談して、少しでも患者さんの痛みが楽になる方法を一緒に考えてもらい、総合的に患者さんの神経障害性疼痛を緩和していきましょう。
以上、医師ひとりから始める神経障害性疼痛の緩和についてお話しました。
有効な薬剤をしっかり使い、あなたの協力者と共に、患者さんのつらい疼痛を緩和してあげてください。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
「周りに疼痛緩和のプロがいなくても、医師ひとりからできる神経障害性疼痛の緩和はあります。ポイントは、薬の使い方、精神症状のアセスメントと治療、それに加え、周りの資源を活用することです。あなたが活用できる資源を使って神経障害性疼痛の緩和を試みてください。」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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