大切な人を守るために知ってほしい、緩和ケアの本当の使い方(早期緩和ケア)【患】#171
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「あなたも受けられる早期からの緩和ケア」です。
動画はこちらになります。
最近、がんサバイバーのみことさんという方が、私の動画を参考に、基本的緩和ケアのお話をなさっていました。とても分かりやすく、多くの方が観られたらいいなと思う内容でした。
みことさんの動画のリンクを張っておきますので、まだご覧になっていない方はぜひご覧になってください。
みことさんの動画で、緩和ケアは終末期ケアだけではないと初めて知った方も多くいたと思います。緩和ケアは終末期に受けるケアだというイメージがありますが、今では、がんになった瞬間から誰でも受けられる、がん治療のひとつなのです。
以前の私の記事でも、早期からの基本的緩和ケアのお話をしました。
その時に「自分の場合どのようにしたら早期からの緩和ケアが受けられるのか」というご質問を数多くいただきました。
実はすべてのがん患者さんは、この早期からの基本的緩和ケアを受けることは可能です。
今回は、みことさんがお話してくださったような、基本的緩和ケアはどのようにすれば受けられるのかに加え、基本的緩和ケアの具体的な内容もお話します。この記事は、全てのがん患者さんとそのご家族、自分や家族がもしがんになったらどうしようと不安に思う方に観ていただきたい記事です。
今日もよろしくお願いします。
早期からの緩和ケアは誰でも受けられる
まずはこの図をご覧ください。
緩和ケアはこの図のように、がんと診断されてから、手術・放射線・抗がん剤治療などの、積極的がん治療と同時に行なわれます。
緩和ケアは終末期だけではなく、早期から行われるものです。早期から行われる緩和ケアを基本的緩和ケアと言います。この図では緑の部分ですね。
基本的緩和ケアは、がんになってからずっと継続的に受けられるケアです。そして、緩和ケアにはもうひとつ、専門的緩和ケアというものがあります。この図ではオレンジの部分にあたります。専門的緩和ケアは、一般的に緩和ケアチームが担当します。
それでは、早期からの基本的緩和ケアを担う医療者は誰でしょうか。実は、基本的緩和ケアを担う医療者は、治療医や、治療を担当するスタッフで構成される「治療チーム」が行うのです。
10数年前より、緩和ケア研修会、通称PEACE研修会というものが、全国的に行われるようになりました。この研修会は、基本的緩和ケアの知識を学ぶための研修会です。
今では、がん患者さんに対面して治療する医師は、全員受けることが必須になっています。ですから、がん治療医は基本的緩和ケアを行うのは自分であるということを当然知っています。
さらに、医師以外の治療スタッフも、このような基本的緩和ケアに関する研修会を受ける医療者が増えています。まだまだ地域差はありますが、今では治療中の患者さんが、気軽に安心して早期からの基本的緩和ケアを受けることができる仕組みができているのです。
早期からの基本的緩和ケアは何をしてくれるの?
早期からの基本的緩和ケアは、主治医だけではなく、治療中のあなたの周りにいる医療スタッフが担っています。
がんの治療中には、治療や副作用、経済的なこと、仕事のことなど様々な不安が出てくる時期です。もし、あなたが疑問に思うことがあったり、不安なことがあった時に、主治医だけでなく治療スタッフに聞くこともできますので、積極的に相談しましょう。早期からの緩和ケアで1番大事なことは、患者さんと医療者がなんでも相談できる関係性を作るということだからです。
それでは、早期からの緩和ケアでは、誰が何をしてくれるかについて具体的に見ていきましょう。
1. 治療法の選択を援助する
まずは治療法の選択を援助するということです。治療法を決める援助をするのは、主に主治医ですが、薬剤師も抗がん剤などについては良く知っていますので、相談に乗ってくれるでしょう。
2. 治療による副作用などに対処する
次に、治療による副作用などに対処することです。
抗がん剤などの副作用はつらいものです。この相談に乗ってくれるのも、主に主治医ですが、薬剤師も当然よく知っていますので相談してください。
また看護師の中には、専門看護師や認定看護師と言われる、特別に専門的な勉強をした看護師がいます。がん全般の相談に関しては、がん看護専門看護師がサポートをしてくれます。また、がん化学療法認定看護師は、特に抗がん剤のことを専門にしています。
このような看護師がいることもぜひ知っておいてください。
3. 痛みなどの症状緩和をする
がんが進行して痛みなどのつらい身体症状が出てきた時には、症状緩和をしてくれます。その際、主治医に相談して鎮痛薬の処方をしてもらってください。
その他、先程紹介した、がん看護専門看護師もサポートをしてくれます。さらには、緩和ケア認定看護師や、がん性疼痛認定看護師という看護師も相談に乗ってくれます。
それ以外にも、皮膚排泄ケア認定看護師、摂食・嚥下障害看護認定看護師、がん放射線療法認定看護師、乳がん看護認定看護師などといった、認定看護師が、それぞれスペシャリストとしてのケアをしてくれます。
「そんな特別な看護師は自分の病院にはいないんじゃないか」と思っている人もいるかもしれませんが、これらの専門看護師や認定看護師は全国で徐々に増えてきています。あなたの治療病院に、どのような専門看護師や認定看護師がいるのかをぜひ聞いてみてください。
4. 気持ちのつらさに対応する
気持のつらさは、自分一人で抱えてしまっていると、どんどん大きくなるものです。この気持ちのつらさも、あなたの周りの治療スタッフに相談して、可能であれば聞いてもらってください。聞いてもらうだけで、楽になることも多いのです。
例えば、抗がん剤治療中に、看護師が点滴を替えに来た時、「看護師さん、ちょっといい?」と声を掛けてみてください。きっと笑顔で、あなたの言葉を受け止めてくれますよ。
5.社会的なつらさの相談に乗る
治療費や仕事、家庭などの社会的なつらさも、治療を受けていると起こってくることがあります。病院によって名称が違うかもしれませんが、これは、がん相談室・医療相談室・地域連携室の相談員やソーシャルワーカーが相談に乗ってくれます。
気軽に部屋のドアをノックしてみてください。
6. 専門的緩和ケアに繋げる
基本的緩和ケアで対処できない時には専門的緩和ケアが必要になります。そんな時には基本的緩和ケアを担当する医師や医療スタッフが専門的緩和ケアに繋げてくれます。自分から依頼しても構いませんし、彼らの方から紹介してくれる場合もあります。これも遠慮しないで「緩和ケアチームに紹介してほしい」とおっしゃってください。
早期からの緩和ケアの例
早期からの緩和ケアをイメージしやすいように、私が先日、乳がんの友人から聞いたケースについてお話します。彼女はがんが再発し、現在通院で抗がん剤治療を受けています。彼女はいくつかの悩みを抱えていました。
ある時、私から話を聞いて、自分も早期からの緩和ケアを受けることができる対象だと知り、自分も受けたいと思ったそうです。ところが、彼女の病院の緩和ケアチームは、入院患者さんのみが対象だったので、自分は緩和ケアが受けられないのかと残念に思いました。
「主治医からもらう薬がだんだん増え、減らしたいんだけどどうしていいかわからない。1カ月前から変更した抗がん剤は、手足の痺れがきつくなると言われていたけど、やはりその症状がきつくなり、この症状がこれからどうなるのか不安。
でもまだ生活に特段支障はないので、主治医に言っても『まだ大丈夫ですね』としか言ってくれず、いつも忙しそうで、それ以上は聞いてはいけないような気がして、突っ込んでは聞けない。また最近手術をした側の腕が腫れてきて、腕が少し上がりにくくなってきた。これも相談したいんだけどなあ。どこに相談したらいいの?」
彼女はそんなことを思いつつ、抗がん剤治療室で抗がん剤の点滴をしている時に、受け持ちの看護師が声を掛けてきました。「最近ちょっと表情が暗い感じがしますが、何か悩み事はないですか?」
彼女は「実は・・・」と言いながら、今の自分の悩みを打ち明けました。すると、受け持ちの看護師が教えてくれました。
「薬のことは、ここの抗がん剤治療室の薬剤師に聞けばいいですよ。彼は、薬を減らすお手伝いをしてくれると思います。また腕の腫れは、リンパ浮腫だと思います。リンパ浮腫については、リンパ浮腫のことを勉強して資格を持った理学療法士がいるので、その人にケアをしてもらうように言っておきますね。
抗がん剤の副作用のことは、がん化学療法認定看護師がいるから、聞いてみるといいですよ。今日はその人が日勤でいると思うから、治療が終わったら診察室に行ってみてくださいね。」
彼女はその日のうちに、それぞれの専門家のもとに行って相談しました。各々のスタッフからは、これからも話を聞いたり、ケアもしてくれるという約束もしてもらい、彼女はとても安心して帰りました。
その後も、それぞれのスタッフが主治医との間を取り持ってくれ、彼女は安心して抗がん剤治療が継続できています。
この話で早期からの緩和ケアを少しはイメージできたでしょうか?
この例では、あまり医師が基本的緩和ケアを行っていないように見えるかもしれませんが、実際には医師が中心になって基本的緩和ケアを行います。しかし、この方の例のように、医師に言いにくい場合には、看護師などの医療スタッフに相談するというのも、とても良い方法です。
このように、治療チームから基本的緩和ケアを受けながら、安心して治療が受けられるがん患者さんが増えれば幸いです。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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