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突然の嬉しい知らせ・・恩送り

ちょっとした時間調整である喫茶店に入る・・

とてもにこやかな明るく感じの良い女性がオーダーをとりに来た・・

「いらっしゃいませ!こんにちは・・・何にします?」

「コーヒーください」

「はい!」明らかに知り合いって感じの対応・・

そのせいか・・何となく見たことがあるような・・・知っているような・・・

「お待たせしました・・ごゆっくり」とにこやかに・・・

(あれ〜?やっぱり見たことがあるなぁ・・・?)しかし思い出せない・・

しばらくすると・・「お冷いかがですか?」と

「あっ、お願いします・・・」

「はい!」とお冷を注ぎながら・・・

「わかります?・・わからないですよね・・直接お話ししたことないし・・」

「ごめんなさい、さっきから見た事はあると思っていたんですけど・・・」

「もうかなり前ですけど、息子がお世話になっていました・・」

「息子さん?」

「えぇ、サッカーやっていました・・・△△コーチですよね」

「あっハイッ!えっどこで・・・・?○○で・・・」

「えっ!」

「でも、途中で辞めちゃって・・・学校も・・・」

すぐに記憶が蘇った・・・「○○君?」

「はい、その節は本当にお世話になりました・・とても良くしていただいたのに・・」

「いや、何も力になれず・・・守ってあげられなかった・・・すみません、彼は元気ですか?」

「色々ありましたけど・・・今は落ち着いて・・・」

選手としてはセンスもあり、期待もしていた、しかしちょっと素行が悪く時々問題を起こしたりすることもあったが根は優しく素直な子だった・・・何度となく二人で話をし、良くなったり、また少し不安定になったり・・・を繰り返していたが少しづつではあるが・・・
自分の問題点を見つめ改善しようと努力していた事は間違えない・・・
担任の先生からも「最近、あいつ変わってきましたよ!練習はどうですか?」と聞かれ
「頑張っていますよ!もう少し体力がついて色々な面で自信を持てると・・・」

「そうですか・・でも明るくなりましたよね!引き続きよろしくお願いします。」

「えぇ、こちらこそ・・」

こんな会話をした事を覚えている・・・

「おい!この間担任先生と話したけどお前のこと褒めていたぞ!最近良いらしいじゃん」

「マジっすか?!」と嬉しそうに・・・
部の部長先生も・・・彼の変化を認めてくれていた・・・そんなある日

練習帰りにちょっとしたトラブルが・・・

ある店の中で調子に乗って数人で騒いでいたと・・・

その件で監督から3日間、雑用係を命じられた・・・・
彼は素直に謝罪し雑用係にしっかりと取り組んでいた・・が・・
後輩が気を使い彼の仕事をちょっと手伝った時・・それを見た監督は・・
「お前が威圧をかけて手伝わせたのだろう!お前ならやりかねない・・!」と・・

近くにいたマネージャーや後輩も「違います・・・そんなことしていません!」と

しかし・・・受け入れてはもらえなかったとのこと・・
次の日・・様子がおかしい彼を見て・・「どうした?何かあったか?」と尋ねると・・
「いいえ、何も・・自分、もうどうでも良いです!って言うか許せない感じです」と悔しそうな表情を見せる・・・
「事情はみんなから聞いた・・俺からも監督に話はする・・許せないって何だ?」
彼は、目に涙を浮かべ・・・ただ、ただ首を横に振るだけだった・・そんな中でもその日の仕事はきっちりやり遂げた・・・
3日間をしっかりやり遂げ、練習に復帰した彼は、いつも以上に気合の入った取り組みだ!
監督がグラウンドに来た時・・・どこまでタイミングが悪いんだと言うくらい・・
ミスを連発した・・
「何だぁ〜お前!そのプレーは!ダメだなやっぱり!」
「ちょっと待って!今のはチャレンジから生まれたミスだ!責めるミスではない!」と
思わず監督に・・・・
「・・・・・どっちにしてもアイツはダメでしょ!仕事がるのであとお願いします!」

監督はグランドから立ち去った・・・・
(何故?何故・・・あのようにしか見ないのか・・・?)不思議な・・違和感・・怒り

複雑な感情が身体中を駆け巡る感じがした・・・
練習後、自ら片付けやグラウンド整備を後輩たちと取り組んでいる彼に・・・
「お前が・・許せないって言った事がどうしても気になる、話してくれないか?」と訊ねた

しばらく黙っていたが・・・小さな声で
「自分のお姉ちゃんは、今キャバクラで働いていて・・でも家計を助ける為で自分の合宿費とか、練習着代とかも出してくれていて・・・すごい真面目に頑張ってくれているんですけど・・・それをどうしようもねぇ女だ見たいなこと言われて・・そんな家庭だからお前もだらしがないんだ・・・って自分は確かにだらしないし弱いしバカですですけど・・・お姉ちゃんは違うし、親父もお袋も色々頑張っているし・・・迷惑かけているのは自分だけだから自分が言われるのは良いのですけど・・・・特にお姉ちゃんの事・・知らないくせに・・・ふざけんなよ・・アイツ!・・絶対ゆるさねぇ・・・・・」と感情を剥き出しにした。

「わかった!・・・お前のその怒り、感情はあたりまえだよ!・・・わかった!」

「・・・・・」


「こんな事、俺が言うべきじゃないけど、わからん奴には言わせておけ・・・お前はやるべき事をしっかりやれ!お姉ちゃんの為にも今、感情に流されちゃダメだよ・・お姉ちゃん頑張っているんだからな!・・負けるなよ!」同じ指導者の立場として言うべき言葉ではなかったかもしれないでもその時は怒りのようなものが自分の感情を抑えられなかった・・・

自分の言葉のボキャブラリーのなさ、引き出しの少なさを悔やんだ・・
ただ、どんな立場であろうと、間違っている事は間違っている、謝るべき事は謝るべきだ色々な感情が頭の中を駆け巡った

「・・・はい・・」

「ちょっと、俺も話して・・・」と言った時それを遮るように・・・

「大丈夫です・・・何も言わないでください・・・大丈夫です!ありがとうございます」

「でも・・」

「すみません、大丈夫です!本当・・・すみません・・・」と微笑んで見せた・・・

何度となく頷き・・「わかった!」
「ありがとうございました」

「いや、・・・今日優しくしたから・・明日の練習は地獄を見せてやろう!」と肩を叩くと

「マジですか?・・・めっちゃ走らすってやつですか?」
「お前だけな!他のみんなはミニゲーム大会で遊ぶ!・・・許せねぇ?」
「許せないっす!殺します!」と笑顔になった・・ちょっとホッとするも怒り・不甲斐なさは消えない・・
その日の帰り・・・部長先生と帰りが一緒になった・・・
「ちょっと話と言うか相談というかがあるんですが・・・・」と二人で飲みに行き・・
今回の件を話す・・・
「そうか・・・それはいかん!・・わかった俺から監督には上手く話すよ!ありがとう」

それから数週間、普段と変わらぬ毎日が続いた・・・ある日
彼の担任から・・・「○○の事なんですけど・・アイツ退学届出して来ました・・今日」
「えっ?」
「昨日もちゃんと練習出て、頑張っていましたよ・・何故?」
「家庭の経済状態が厳しいとの理由です・・」

「えぇ〜?アイツまだ学校にいます?」

「どうかな?とりあえず明日はまだ来ます・・色々あるんで・・・」
翌日、練習中グラウンドの入り口に制服姿の彼がいた・・・

「おい!」

「すみません・・・本当に・・色々ありがとうございました。」

「もう、決めたのか?・・何とかならいか?」

「はい、色々考えて、家の事とかもあるし・・・通信で頑張って・・・とりあえず」

色々話はしたが、彼の気持ちは堅かった・・・自分の不甲斐なさを感じた

「そうか・・・力になれなかったな・・・ごめんな・・」

「いや、△△さんが来てからは楽しかったですキツかったけど、試合にも使ってもらって・・」

「一生懸命頑張っていたし実力もあるんだから試合に使うのは当たり前だよ・・・」

「ありがとうございます」
「これからが、大事だからな頑張れ!」

「はい、○○先生(部長先生)にも言われました・・・色々アドバイスも・・」

「そうか・・・」

「ありがとうございます・・じゃぁ行きます・・」

「たまには顔出せよ!」

「ありがとうございます。」握手をして別れた・・・それっきりだった・・・

試合の時・・・気が付かなかったが・・一度だけ見に来ていたらしい。

・・・・・「彼は今何を・・・」
「私の知り合いの印刷会社で働いています・・去年結婚もして・・」

「そうですか・・良かった!」

「会社の社長さんのお孫さんがサッカーしていて、休みの日にはそこのチームのコーチしているんですよ・・あんたに教えられるのって言ったら、△△さんの練習を簡単にしてやっている・・みんな楽しそうにやっていて・・上手くなって来ているって言っています。」

「そうですか・・・」嬉しかった・・
「先ずは、楽しい、そして好きだと思える事が大切だとか、失敗はしても良いチャレンジした結果なんだから・・とか色々教わった事を偉そうに言っているみたいですよ!」

「そうですか」ちょっと目頭が熱くなった・・・

「○○○ちゃん(奥さんらしい)に俺は人気のあるコーチなんだって自慢しているらしいです!・・相変わらずすぐに調子に乗るので・・・」とお母さんも嬉しそうに笑っている。

「お父さん、お姉さんもお元気ですか?」
「おかげさまで・・・姉の方も結婚してもう子供が二人・・あたしたちジ〜ジ・バ〜バです!」

「○○君、子供はまだ?」
「まだみたいですねぇ〜」

「そうですか・・頑張っているんですね・・良かった・・何だかとても嬉しいです」

「本当にコーチのおかげです・・」
「いや、とんでもない・・色々辛い思いもして、乗り越えて来たから・・良かった!」
深々と丁寧に頭を下げるお母さん・・・とても良い笑顔を見せてくれた。
愛情深い家族なんだろうなぁ〜と感じる
「○○君によろしくお伝えください・・今日色々話を聞いて物凄く嬉しく思っていると」

「伝えます!あの子も喜ぶと思います・・でも最初びっくりしました・・」
「よく分かりましたね・・・」
「何度かお見かけもし、あの子からも色々話を聞いていましたから・・」

「悪口ばっかりだったのでは・・・(笑)」

「最初は厳しいとかキツイとか鬼だとか怖いとか言っていましたけど、そのうちに楽しいとか面白いとか・・・どんどん好きになっていったみたいですよ!」

「あぁ〜嬉しいな・・・!」

「あの子もコーチのようになりたいって思って今、子供達と接しているんだと思います。・・せめてもの恩返しだと思っているんでは・・」嬉しかった・・
「いや、自分んのことより・・・今接している子たちに恩送りで沢山愛情と情熱注いで輝かせてあげてください・・自分が輝こうとする指導者ではなく、選手・子供たちを輝かせるのが本当の指導者ですから、彼もそれはよくわかっていると思うんですよね・・自分自身の経験からも・・・」
「今はもう指導されていないのですか?」
「えぇ、今は・・どこかでまたやりたいなって気持ちもなくはないのですが・・」

サッカーを指導して・・サッカーが上手くなる。もちろん嬉しい!
でも、人としての成長、笑顔、優しさ、強さ、輝き、人間らしさ・・そんな物を感じられることほど嬉しい事はない・・・
「強いチーム作りより本当の良いチーム作りにこそ価値がある・・そこから本当の強さが生まれるんだよ」・・・と大学時代色々お世話になった今は亡きコーチに言われた・・・
「俺の理想だよ!」と笑顔で肩をポンポンと叩きながら話してくれた事を思い出す。

きっと彼もそんな指導を続けてくれることだろう・・・・自分らしく!

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