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恋愛下手な沖縄娘が、東京で仕事に夢中になり、沖縄に新たな夢と恋人を連れて帰る話(仮)【小説の下書き その18】

下書きです。
あとで書き直します。


3.ひまり 帰郷

4月1日

朝、目覚めると、部屋には何もなかった。

今日、私は羽田を発ち、故郷の沖縄に帰る。東京での丸12年は、色々なことがあったにもかかわらず、あっという間の出来事だったとしか思えない。

うがいをして顔を洗った。そして、布団を畳む。

家具や家電は、貰っていただける人に差し上げ、残った物は廃棄した。高額な輸送費を出してまで持って帰りたい物は、そんなになかった。ツアーコンダクターになってからは、このアパートで過ごした日より、スーツケースで飛び回っていた日の方が、圧倒的に多かったのだ。

前もって実家に送った段ボール箱の数も、引越し屋さんが「これだけですか」と驚くくらいに少なかったのだ。

家具と家電は、1階に入居した青森から上京した18歳の女の子が、何も持っていなかったので、ほぼ全てを差し上げた。彼女は喜んでくれたし、処分しなければならなかった私も、とてもありがたかった。

敷布団と掛布団は、大家さんの長縄さんが、貸してくださったのだ。
布団カバーは、「洗わなくていい」と奥様が言ってくださって、私は、甘えさせていただくことにしていた。


近くのローソンへ出かける前に、私はメイクを行なう。ポーチなどをバッグやスーツケースに入れてしまおうと思ったからだった。

ロクシタンのチェリーブロッサムの香水を、2度プッシュして、スーツケースに入れた。メイクポーチはバックに入れる。

枕と枕に敷いたバスタオルを段ボール箱に入れる。昨夜は、この箱をテーブル代わりにして日記を書いた。書きにくさよりも、おつな気分の方が上回っていた。


私は、枕を入れる前に、マグカップを出した。マグカップには絵葉書がさしてある。バリ島の、美しい風景写真だ。青い海と空。優雅なヴィラのプールと青い海。夕日が沈むオレンジ色のレギャンビーチ。ケチャックダンスの屈強な男性と怪し気な炎など、5枚の絵ハガキを少し丸めてマグカップに差してあった。

枕を入れてから、再度、マグカップを入れて絵葉書を差し入れた。

布のガムテープを、ちょうど良い長さに切る。2つ、用意した。
テープを箱に入れる。フタをして、テープを十字に貼った。

段ボール箱を抱えて、ローソンへ行き、ゆうパックで実家に送った。

アパートに戻ると、ちょうど良い時間になっていた。
大家さんのお宅へ行き、インターホンを押す。

長縄さんが出てきて、挨拶を交わし、一緒に2階へ上がり、私の部屋を見てもらった。
「布団は、私があとで引き揚げますから、このままで結構です。キレイに掃除をしてくれてありがとう。ハウスクリーニングを入れるから、掃除しなくてイイって言ったのに」と、長縄さんは言った。

私は、アパートの鍵を、大家さんへ手渡した。階段を下りるとき、キャリーケースを大家さんが持ってくれた。東京のお父さんは、最後まで、お父さんだった。

下には、奥様が待っていた。私は思わずハグした。

「ありがとうございました」

「また会おうね。元気でね」
「奥さんも、お元気で」

私はハグをほどき、身体の向きを変えて、「長縄さんもお元気で」と言った。
また、3人とも涙目になった。

私は3度振り返って、手を振った。胸がジーンと暖かくなった。私を覆っていた何かが晴れた、そんな明るく前向きな気持ちになった。


私は、またローソンに寄った。 缶コーヒーとランチパックを買って、公園に寄った。

ベンチに腰掛けた。ここで、遅めの朝食にすると決めていたのだ。

上を見上げた。
青空を背景に、ソメイヨシノが生き生きと花びらを広げていた。満開に見える桜は8分咲きと、誰かが言っていた気がする。

iPhoneを、キャリーケースの上に据えたバッグの、小さな外ポケットから取り出した。通話履歴からメーグーを見つけて、タップする。

「おはよう」
「おはよう、ひまり」

「予定通り13時10分発だから、那覇には午後3時45分に着くから」
「いよいよだね、ひまり。4月1日だけど、ウソじゃないよね?」

「ウソじゃないさ~。メーグー、私は私を大切にするって決めたの」
「どうしたの突然?」

「私は、仕事だけの20代だったでしょ」
「あと数日で33歳だけどね」

「私、30代は恋もする!」
「30代は、もう7年しかないけどね」

「もう~メーグー、そういうツッコミとか要らないから~。それより私って、どう思う?」
「は?」

「まあ、みんな最後だからさ~、花向けの言葉ってやつだった思うんだけどね。何人からも『あなたはカワイイ』って言われてさ~」
「いまさら、何を言ってるの? ひまりは私の憧れよ」

「へ? 憧れ?  どこがさ~?」
「そのカワイイ顔、小さくて可愛いし、脚長いし、ボブパーマもとってもチャーミングだし、性格が超~明るいし。私は、ず~っと、ひまりに憧れてたのよ」

「あきさみよー!  だってメーグーの方が、断然美人じゃない!」
「私、『綺麗』って言われても、『カワイイ』って、1度も言われたことないんだよ」

「ええ~。さすがにそれは信じられんさ~。エイプリルフールのウソなんでしょ?」
「そんなことない。中学のときも高校のときも、私、何度も言ったよ。そういえば、ひまりは『嘘だ~』って言って、信じようとしなかったね。照れ隠しだと思ってたけど、本気だったの?」

「も~、もっと前に言って欲しかったさ~」
「だから、もっと前から何度も言ってたの。ところで、時間、大丈夫なの?  どこかに寄るところとか、ないの?」

「そんなのは、ありません。私は、超~余裕をもって空港に向かう、そういう職業病ですから。途中でうたた寝しても大丈夫さ~」
「うたた寝したら、それはダメでしょ。まあ、とにかく気をつけてね、明日から一緒に仕事をするんだからね。もう、ひまりだけの身体じゃないからねぇ~」

「電車と飛行機で行くんだよ。私は気をつけようがないの。だから『気をつけて』って言葉は、電車の運転手さんとパイロットに言わないと、意味がないのさ~」
「はいはい、電話切るよ。空港、迎えに行くから」

そう言って、メーグーは電話を切った。


私の座っているベンチの前を、ママと5歳くらいの男の子が通った。

「はいはい。もぉ~分かったから」と若いママが言った。
手を引かれている男の子が、「はいは1回でしょ」と、ママに言った。

私は、小さく吹きだしてしまった。

少しだけ冷たい風が吹き、桜の花びらが舞った。
ほんの数枚だけ舞った。


私は、プルトップを引いて、コーヒーをひと口飲んだ。

「まーさん!」

私は、声に出して言った。





その18へ つづく


※この記事は、エッセイ『妻に捧げる3650話』の第1552話です
※僕は、妻のゆかりちゃんが大好きです


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