第285話 僕は、「違いがわかる男」なのだろうか?
僕は、無類の珈琲好きだ。
僕の好みの珈琲は、酸味のない、苦い珈琲だ。
珈琲豆がメッチャ黒い、深煎りが好みで、小川珈琲の『炭焼珈琲』を豆で購入し、愛飲している。
入れる直前に、豆をミルで挽く。
時間もかかるし面倒だが、この方が、香りが良いのだ。
ゆかりちゃんも、最初だけ、豆で購入したものの、面倒だからと、今は粉で購入している。
ゆかりちゃんは、少し酸味があるコーヒーが好きで、このまえは、カフェランテで福袋を買っていた。コーヒーの粉200gが3種類入って、たったの1000円だった。
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僕は、ややお値段の高い、小川珈琲を希望しているので、少し申し訳ないという気持ちになっていた。
そんなときに、ゆかりちゃんと一緒に立ち寄った無印良品で、『オーガニックコーヒー ダーク』とい珈琲豆を、偶然みつけたのだ。200gで、500円くらいだった。
ゆかりちゃんに、「これって高いの? 小川珈琲の炭火珈琲と比べて、どう?」と、質問した。
ゆかりちゃんは、「小川珈琲よりは安いよ~」と言った。
ならばと、購入してみたのだ。
味の説明も、酸味は星1つで苦味が星5つのマックスだったから、僕の好みの味かもしれないと思ったし、もし、そうなら少しだけ家計の負担を軽くできる。
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ミルで挽いて飲んでみたら、少し、酸味があった。
つまり、僕好みではない。
それでも、買った以上は、もったいないので、継続して飲んでいたら、ときに、美味しいときがあったのだ。
2度に1度。もしくは3度に1度は、酸味が感じないのだ。
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挽き方や淹れ方に違いがなかったか?
僕は、ここ数日の記憶を手繰り寄せてみた。すると、なんとなくだが、豆を多めに引いたときは、酸味を感じた気がした。
これからは、豆を少なめにして挽いてみよう。
僕は、以上のことを、ごく簡単に、ゆかりちゃんに語った。
「違いのわかる男、だからさぁ~」と言って、少し、ニヤリとしてみた。
ゆかりちゃんは、僕の、わざとニヤリをスルーして、
「ダバダ~♪ ダ、ダ、ダバダ~、ダバダ~♪」
と歌いだした。
・・・懐かしい。
その歌、すっかり忘れてた~。
そして、古っ!
そのボケ、古っ!
しかも、僕がボケたのに、ボケで返してるやん!
そこがオモシロイ! さすが天然!
なんか、自然と歌い出しているし。
しかも、いつもは、おチャラけて歌うのに、このときは本意気で歌っていた。
なんか、その、本意気が、逆に面白い。
もちろん、僕は、思っただけだ。
年上の奥さんに、「古っ!」なんてツッコミは、思っても、決して言ってはならないのだ。
そして、結局のところ、僕の「違いのわかる男、だからさぁ~」は、スルーされたままなのだが、果たして、ゆかりちゃんは、どう思ったのだろうか?
少しは、おもしろいと思ったのか?
それとも、(丞持(じょーじ)は違いがわかるよね)と、肯定してたのか?
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若い方は、「ダバダ~♪」を、ご存じないかもしれない。
このCMの、後半の歌だ。
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歌い終えたゆかりちゃんは、
「牛乳、入れたら」
と言った。
確かに、そうすれば酸味は気にならなくなるだろう。僕は、素直に試してみた。
◆結論
牛乳を入れると、酸味も消える代わりに、珈琲の香りも消えてしまった。
僕は、珈琲とは「香りをいただくもの」と思っているくらいなのだ。
香りと苦味を堪能する、それが、僕にとっての【珈琲】なのだ。
つまり、牛乳インは、不可。
そもそも、香りが消えるから、僕はブラック派だった。
◆〆
ホンの少しではあったが、
「ダバダ~♪・・・」
と歌った、その、ゆかりちゃんの歌声には、少し得意気が乗っかっていた。
おそらくは、思いがけずイイ声で歌えて、イイ音程で歌えて、きっと気持ち良かったのだろう。
その、ホンの少しの得意気も、違いのわかる男には気づかれてしまうのだ。
ミュージカル女優を、途中から気取りだしているようだった。
僕は、そんなゆかりちゃんが大好きなのだ。