【小説】ホテルNOBLESSE #9
パートタイマの多くは、誰かが質問するのを待っていた。
2番目以降なら、手を上げやすい。でも、1番目に口火を切るのには抵抗を感じるようだ。
集団あるあるだ、と僕は思った。
志村常務が嫌がるかもしれないが、このモタモタした時間が僕は大嫌いなのだ。
僕は立ちあがって言った。
「なんでも構いません。自由に質問してください。僕は山下さんから質問を6個託されています。ここにプリントアウトして持って来ています」
と僕は言って、クリアファイルをヒラヒラさせて見せた。
「皆さんの質問を先にしていただければ、被っている質問が省けます。だから、最後に質問するつもりです。なので、どなたでも、どんな質問でも構いません。どんどん質問してみてください」
そのように、発言した。
蜂谷さんが、手を小さく上げた。
志村常務や来島社長に、「どうぞどうぞ」と促されて、蜂谷さんは立ち上がり質問をした。
蜂谷さんは、普段、とても無口なので僕は少し驚いた。
「制服は変わるのでしょうか? 今の制服は、脚が開きにくくて作業がしづらいのです」
良い質問だと思った。
時給が、有休が、残業が、という深刻な問題ではない。僕は、プラムさんが「制服を変えようと思った」と小耳にはさんでいた。
案の定、プラムの南さんの顔がほころんだ。
南さんの顔は、お笑い芸人のオズワルドの右に似ている。僕は、そう気づいた。
南さんは、ニヤニヤしながら「変えます。変えるつもりでした」と語り出した。「変えるなら、どんなのがイイでしょうか?」と、逆に聞き返している。
会話は弾んでいるが、僕は、
(実現するのか?)
(予算は大丈夫か?)
(赤字事業だと思うけど…)
(パートさんの意見は、決して1つにはまとまらないけど…)
(チェッカーの制服を、ストレッチスーツにして欲しいのだが…)
などと心配事に思考を巡らせ、
(今は、変わるかもしれない制服話で盛り上がっても致し方ないぞ)
と、妄想を打ち切った。
ここで余計なことを言って、話を膨らませてはイケない。
制服は、いずれ変わるということでその話が終わり、1番前の列に座っていた佐藤さんが手を上げた。
「団体保険に入っているのですが。ブラッシュさんで。それって、今後はどうなるのですか?」
その、団体保険というものに加入しているのは佐藤さんだけだった。
よって、後に正確な回答を行なうということで、この質問はすぐに片付いた。
「ほかにはありませんか?」と志村常務が声をかける。が、反応はない。
「では」と僕が手を上げた。
「山下さんからの質問を読みます。6個ありますので、1つずつ回答をお願いします」と言った。
空気が変わった。
(なんだ。みんな、聞きたいことは山下さん(もしくは僕)が聞いてくれるはずだと、そう思っているのか)
僕は、そう直感した。
10に続く
PS. 僕のKindle本 ↓『いいかい、タケルくん』【考え方編】です。
読むと、恋人ができてしまう自分に変わります。
恋愛とは、若者だけのものではありません。
人生100年時代。
40代、50代、60代、70代でも、恋愛って必要です。(僕の主観です)
そばにいるパートナーは、誰にだって必要なのです。(僕の感想です)
「考え方」ですから、若者だけでなく中年にも初老にも参考になります。
もちろん若い男性には、モロ、参考になります。
女性にも参考になります。【男の思考】というモノが書かれていますので。
ご一読いただけたら幸いです。
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