憎めないおちゃめギャングJ
南部です。
ロサンゼルスでの、わたしの友人のいとこの話。
行方不明になっているとか、ストリートを彷徨っているとか、いろいろな話を聞くので、ここでの名前はJとする。
ある日友人と放課後に友人宅でメイク動画を撮影しユーチューバーごっこをするという偏差値34くらいの遊びを計画し共に帰宅していた。
私たちは学校から出ているバスに乗り、その後バスを乗り換えた。
前置きとして、車社会のロサンゼルスでは、25万円くらい出せば“走る車”は変えてしまう(コロナ後変わっているかもしれませんが)ので、バスに乗っているひとはなかなか香ばしい人が多いのだ。もちろん運転をすることが困難な人や、学生、主婦の方もいますので、バス=危険ではないです。
そしてバスを乗り換える。混み合うバスの中、私たちに向かって”PRIMAAA!!”と叫ぶ男がいた。primo/primaはスペイン語でいとこを意味する。
絵に描いたようなcholo(ヒスパニック系のギャングの男性)が、ビールに紙袋を被せて飲みながらこちらに手を振っている。カリフォルニア州では公共の場所での飲酒が禁止されているのだ。
友人が顔を引き攣らせ
”ああ、あれ、いとこだ、、“
というと同時に彼は周りの乗客に対しシッシッとやりながら、
”おーちょっとあんたらどいてくれや!俺のprimaに席譲れや!!“
と叫んでいる。平日朝10時くらいの東横線くらいには混み合った車内が一瞬静まる。
私と友人はとりあえず彼に黙って欲しいのでササっと彼に駆け寄る。周りの方が不憫すぎるだろと思ったが、ここで何か言えばとても面倒くさいことになるのは猿でもお見通しなので、ジャパニーズらしくペコっと謝罪し着席した。
挨拶をするとJはジェントルな人であった。
目を合わせて固い握手をしてくれる人に悪い人はいない。
そしてなぜか当然のようにJも私たちについて来る流れになった。
3人で一緒にバスを降車し改めてJの顔を見ると、彼はギャングの目つきをしていた。
ギャングは基本、目つきでわかる。重度のPTSDを抱えていることが多い彼らは、一般市民とは違う目をしている。服装やらタトゥーなんてのはおまけにすぎない。
そして彼は道ゆくひとに自身が所属するギャング組織のハンドサインを振りかざす。
エプロンをつけたおばちゃんとかにもやってる。そのおばちゃんが実はギャングで大変な乱闘騒ぎに…なんてなったら面白いのだが、そんなわけはなく、彼女は私たちを“捨てそびれた異臭を放つ甲殻類のゴミ”を見るような目つきで見てきた。
おばちゃんにギャングアピールする人間はそういないが、ギャングは自分のテリトリーや組織を隠さない。
正直、本当にやめてほしかったが、彼の組織に対する忠誠心にあまり意見することは憚れたので、
「落ち着い、た、ら…」と牧野つくしのような忠告をしていた。
友人宅に着くと、Jは友人母に歓迎されていた。
メキシコ系の人たちは本当に家族を大切にする人が多いので、Jも、おばさん会いたかったよと言ってハグとキスをしていた。
友人のお母様はあまり英語を話さないが、とても素敵な方だった。
そのお母様に向かってJは嬉しそうに話す。
「その男がよぉ、男をワパーってとっ捕まえてよぉ、男に言ってやったんだよ!そしたら俺の男がよぉ」と、男何人出てくるんだ、しかも擬音語がワパーしか出てこないエピソードを披露してすごく微妙な空気になったところで友人が「じゃあマイ、部屋にいってメイクしよう」と言い出した。
いやこの人いたら絶対自然消滅の流れだろうと思っていたのだが友人もなかなかに負けていないというか、ぶっ飛んでいる人だった。
「今日は2人で毎日メイクをします」
とそれっぽいことを言い、不安定に固定されたiPhoneに喋りながらYouTuberごっこをすると、
「俺はよぉ、メイクのことはなんにもわからないぜ」と、大きな声で喋りながらJが入ってきた。
じゃあ入ってくんなよwwwと思ったがとりあえず笑ってJを流しつつメイクを続けた。
するとJ、画角に入ってきてまた“漢”が13人くらい出てくる話を始めたのであるww
もう友人も私もYouTubeごっこなどどうでもよくなったので撮影を止め、そのまま友人宅でご飯をご馳走になりその日は終わった。
その後Jは元気にしているんだろうか。
バスで他の方に迷惑をかけていないことを願うばかりである。
終焉