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「IRIS SUN」と「AI」について

酒本麻衣と酒本信太による音楽プロジェクトIRIS SUNの新作『AI』を11月7日にリリースいたします。


「IRIS SUN」と「AI」について

IRIS SUNは私と信太にとっての最初のbabyだったのかもしれない。最初は、意識の中にやってきた宇宙人の子供のような感覚でいたけれど、今日は初めてそんなふうに思った。

IRIS SUNはいつも俯瞰している。観察者だ。その視点を通して見える様々な景色、ときに感じられる香り、音、光を映し撮りながら、歌という形にしてレコーディングする。いつも知らない景色だけれど、同時にとても懐かしい。掘ったことのない木の根を掘り返してゆく視点だったり、凍りついた湖の上を猛スピードで飛んでいたり、早朝5時36分にはしゃぐ男の子になっていたり、全ての弟を見つめる姉の愛しい眼差しになっていたり。

今回発表する「AI」は私たちが娘を授かってから、子育てに奮闘していて、ほどんどこのIRIS SUNのプロジェクトに取り掛かる時間がない中で、おそらく産後、初めてまとまった時間をとって取り組んだ最初の回だったと思う。昨年、2020年の10月14日、信太の29歳の誕生日に私たちはその時間を少し無理をしてとった。娘がお昼寝をしてくれている時間に、レコーディングを行った。

IRIS SUNは二人で同時に行う即興制作で、信太が弾くピアノに誘われるようにして、私は歌の世界に潜ってゆく。体大45分から1時間半くらい私たちは終わったとわかるところまで続ける。この日は1時間くらいだった。久しぶりだったこともあるけれど、出産や子育てをしている中で、私の何かがアップデートされていることがとても感じられた。通りがよくなっている。というのが正しいかわからないけれど、とにかく出やすい。きたものがどんどん出てゆく、と感じた。今までに出たことのない音がどんどん出てゆくのを、恐ろしくもなりながら、眺めているもう一人の視点がいる。

最中、生まれてくる赤子の泣く声が大きく響き渡った。もう一人の視点が泣けと泣き叫ぶ。何を見たのだろうか。私はこの日やってきたヴィジョンは、外に出すためのものではないと思った。そこで私たちはこの日のレコーディングは冒頭の5分を「GINGA」と、最後の5分を「AI」と名付けて短い作品として出すことにした。真ん中に響き渡る音があまりに激しく、強く、恐ろしいものであったから。

この二つの作品として分割して出したのち、特に「AI」の最後の5分の部分はこの1年間私をいろんなときに包み込んでくれた。宮城県で昨年冬に震度5の大きな地震が起きた。幸い物理的な被害はなかったけれど、私たちは大きく揺れたショックでしばらく眠りにつくことができなかった。ベッドの中でも、私たちは小刻みに震えていた。眠れずにいた私たちは1番にAIの最後の5分を枕元で流し始めた。そうして、眠りについていった。このほかにも、いろんなタイミングで私たちはAIを聞いていた。最後の5分の部分だけを。

私はこの数ヶ月、何かを出したい、という気持ちが自分を突っつくのを感じていた。色々と自分の中を探ってゆく中で、このAIのことだったことがわかってきた。「AI、もう出ているのだけど」と思いながら、何気なく信太に「AIはアルバムにしたい。」と話した。そして、ちょっとその日のレコーディング全部聞いてみようか、という話になった。

その日、2020年10月14日の音源の全て聞く中で、耳を塞ぎたくなるような恐ろしい部分があることを私は覚えていたので、遠巻きにスピーカーを背にして聞いていたのだけれど、その恐ろしく激しく、醜くくもあると記憶していたその音は、私を滝の中に放り込んだ。大量の透き通る水を浴びた後のような、スッキリとした気持ちにさせてくれた。私の中の泣き叫びたい感情の塊が、この響きと共振して、音楽が終わるとともに消えていった。

こうして、私がIRIS SUNの「AI」を一視聴者として体験するのには、1年間この作品を寝かせる必要があったのだと思う。初めて聞く人のような体験をして、ショッキングではあったけれど、聞いてよかったと、心から感じた。ためしに、それから何度も聞いたのだけけれど、ある瞬間になると、私は感情を伴わない涙が流れてくる。それは胸の内側から突然に流れ出てくるように、突然に溢れてくる。何度も何度も。音を浴びて、私は滝に打たれたようになる。体の緩んだ部分を締め直したような気分になる。そして、その「滝行」の後には光の世界が広がっている。何もかも包み込む光の世界。当初、「AI」として発表していた最後の5分間。

歌うことが少しずつ私の体に馴染んでゆき、確度が定まってきている。このIRIS SUNの世界にどっぷりと浸かってから、maishintaを歌うときに、生きていることが本当に嬉しくなる。なぜなら、IRIS SUNは無意識の領域からきている目に見えない世界の風景だけど 、maishintaはこの世界に物理的に存在する自分自身を写しているから。今生きているこの自分自身へ眼差しを向けていること、そのことが嬉しい。ここに存在としていることはなんて面倒なことだろうと思う。でも、これも私が選んだことなんだ。と気づくことができる。私は全て選んでここにいる。と、力を取り戻し、私は毎瞬間、選び続けたいと改めて思う。光を。愛を。

視点は至る所に点在している。空気の中に充満している。観察者という視点が、このIRIS SUNの立ち位置です。そして、その視点があることで、私たちは戻って行ける。懐かしい場所へ。そのことをいつも思い出していたいから、私はIRIS SUNの制作を続けてゆくのだと思う。

「AI」はこのメッセージが届く人であれば、きっと何か良きものをお届けできると思います。言葉よりももっとダイレクトに。

11月7日にリリースしますが、当日はオンラインで鑑賞会のイベントも開催します。お待ちしています。

IRIS SUN -Mai
2021.10.26

AI -Online Appreciation Party Ticket

IRIS SUNの新しいHPもできたのでこちらにこれから様々なインフォメーションをアップデートしてゆきます。ぜひチェックしていただけたら嬉しいです。

IRIS SUN
www.irissun.co

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