維摩VS魔王、そして天女(1)
釈迦により、次に維摩の見舞いを指示されたのは、持世菩薩だった。
しかし、その持世菩薩も、維摩への見舞いを辞退する。
その理由としては、彼も維摩には苦い経験を持っていたからと言う。
持世菩薩
「私が静かな部屋で座禅を組んでいた時の話になります」
「魔王が1万2千の天女を連れ、しかもその姿を帝釈天に化けて、楽器を鳴らし歌を歌いながらやって来たのです」
「いや、それを見た時点では、魔王とは思えず、仏法の守護神たる帝釈天と思ったのです」
「そもそも福相を備えており、大勢の天女にかしずかれていたのですから」
「そして、大勢の天女も帝釈天、実は魔王なのですが、けっして不満などは感じていない様子」
「私は思いました」
「これほど多くの女性に満足を与えるというのは、よほど精力があるか福徳を持っていると」
「しかし、私は、帝釈天に化けた魔王に言ったのです」
「あなたは、確かに福徳に恵まれているようです」
「しかし、行動は慎むべきかと」
「五欲などは、結局は無常ということを理解しなければなりません」
「肉体も生命もやがては滅び行くもの、そんなものよりは、消え去ることのない永遠の真理を求めるべきだと」
「すると、帝釈天に化けていた魔王が言うのです」
「持世菩薩様のおっしゃること、よくわかりました」
「それでは、お礼にこの天女を差し上げますから、おそばに置かれますように」
「しかし、私は断りました」
「何しろ、私は出家の身」
「女性を自分のそばに侍らすなどは、禁忌なのです」
「すると、その時でした」
「あの維摩さんが現れたのです」
「そして私には、こう言うのです」
「帝釈天に化けた魔王に誘惑されているだけだよ」
「そして維摩さんは、今度は魔王に言うのです」
「私は一般人だから、何人でも女をそばにおける」
「だから、その女を私にください、喜んでお受けしますと」
「すると、今度は魔王が困りました」
「そもそも、私に天女を差し出して困らせようとしたのですから」
「それを思って、その場から逃げようとするのですが」
「どうしたことか、維摩さんの迫力に押されたのか、とても動きが取れなくて、逃げることもかなわないようなのです」
※維摩VS魔王、そして天女(2)に続く。