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土佐日記 第51話 二十九日、①

(行程)蒲生田御崎(あるいは鹿の首御崎)から土佐の港へ

(原文)
二十九日、船出して行く。
うらうらと照りて漕ぎ行く。
爪のいと長くなりにたるを見て、日を数ふれば、今日は子の日なりければ切らず。
正月なれば、京の子の日の事いひ出でて、「小松もがな」といへど、海中なれば難しかし。

※今日は子の日なりければ切らず。
 この文における子の日は、単に十二支の最初の日としての「子の日」。
 正月の「後の子の日」になる。
 当時は、爪を切るにあたっても、吉凶を定めていた。
 爪は丑の日に切る習慣があった。
※正月なれば、京の子の日の事いひ出でて~
 この場合の「子の日」は「子の日の遊び」「子の日の松」を表現する。
 正月の最初の子の日に、野に出て小松を引き抜いて庭に植え、若菜を摘み宴会を開く。
「子の日の松」は、その時に引き抜いて飢えた小さな松。

(舞夢訳)
二十九日になりました。
船は、春の日差しを浴びて、ゆっくりと漕ぎ進みます。
指を見ますと、爪がかなり伸びておりました。
日を確認したところ、今日は子の日でありましたので、切らずにおきます。
(今月は)正月でもあることから、京の都で最初の子の日に行われる行事を(思い出して)、皆が言い出しますが、「小松でもないのかな」などと言ったところで、こんな海の上でありますので、無理な相談です。

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