維摩VS魔王、そして天女(2)

持世菩薩は、話を続けた。
「その時でした、天上から声が響いたのです」
『魔王よ、天女を維摩に与えなさい、そうすれば逃れることが出来る』
「そこで、魔王は維摩さんに天女を与えようと決心したのです」

「さて、その維摩さんは、少し変わっておりました」
「そのまま引き連れて妾にはしないのです」
「そうではなくて、心の持ち方を変えるように説くのです」
「つまり、あなた達は既に魔王の部下ではないのだから、私の言う通りに気持を入れ替えなさいと説くのです」

「あなた達が魔王の部下の時は、五欲、つまり眼・耳・舌・鼻・口の五官が求める欲望を求めていたのではありませんか」
「愛欲と言って、男の姿、男の声、男の匂い、男の味わい、男に触った感覚のような悦楽になるけれど、それを追い求めるとこが女の最大の生きがいで、歓喜だったであろう、男に愛されることが女の喜びだったのでしょうね」

「しかし、維摩さんは、天女たちに、『そうではなくて、心を楽しませなさい』と説くのです」
「ただ、天女たちは、心を楽しませるということが、わかりませんでした」
「それで、その意味を維摩さんに尋ねたのです」
「維摩さんは、丁寧に説明を繰り返します」
「『常に仏を信じることを楽しみ、常に説法を聴こうとする気持を楽しみ』
『衆生に尽くすことを楽しみ、五欲から離れることを楽しみ・・・」
『愛欲の苦界の中で苦しむだけの世界から、心の平安の世界に移りなさい』と、そのような意味でしょうか」

「それでも聴き続ける間に、天女たちはなんとなく理解した様子」
「自分たちが暮らして来た魔界とは、全く異なる世界があることに、気がついたようなのです」

「そこで、魔王は、天女たちが肉体の快楽から心の平安に関心を示すようになった様子を見て、すごく焦りました」
「これは大変なことになる、このまま維摩に取られてしまうと」
「魔王は天女たちに言いました、『さあ、お前たち、私と一緒に魔界に戻ろう』と」

「しかし、天女たちは、その魔王の言葉を拒否します」
『あなたは、すでに、この私たちを維摩さんに渡されたではないですか、それに私たちには、心の平安があります、もう昔の身体だけの快楽などは欲しくありません』

※維摩VS魔王、そして天女(3)に続く。

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