健さん(31)金目鯛のたれから、健とひとみの「初の対面お食事」
「このたれが・・・」
健の顔が、ほころぶ。
ひとみは、ドキッとする。
少なくとも悪い評価ではない、と思うけれど、その先を知りたい。
「金目鯛も好きですが、この煮汁も好きなんです」
健の口からは、ホッとするような言葉。
そして、ご飯を勢いよく、口の中に放り込む。
その煮汁付きのご飯を飲み込み、健はポツリ。
「この味は、作法とか、そんなものを超えた味で」
「好きでたまらないんです」
ひとみは、この時点でうれしくて仕方がない。
「作戦成功!」と思う。
しかし、そのひとみにも、予想外の事態が発生した。
健が、あまりにも、美味しそうに食べるので、自分も食べたくなってしまった。
そして恥ずかしいことに、何気なく自分のお腹に、手をやってしまった。
すると、健が、ひとみの様子をじっと見る。
「もしかして、お嬢様は、夕飯を?」
「まだ、食べていないとか?」
ひとみの顔が、真っ赤に変わる。
「はい、作るのに必死で」と、何とも正直な反応。
健は、笑いをこらえきれない。
「一緒に食べましょう、見られているのも恥ずかしい」
ひとみの反応も速い。
「はい!ただいま!」と、「自分用の小さ目の金目鯛」と味噌汁を温め直し、健と向かい合って食べ始める。
さて、父良夫は、そんな不器用な二人の「初の対面お食事」を感づき、そっと家を出て、美智代の居酒屋に向かった。