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土佐日記 第32話 十五日、

(滞在地)室津

(原文)
十五日、今日小豆粥煮ず。
口惜しく、なほ日の悪しければ、ゐざるほどにぞ、今日廿日あまり経ぬる。
いたづらに日を経れば、人々海を眺めつつぞある。
女(め)の童の言へる、
「立てばたつ ゐればまたゐる 吹く風と 波とは思ふ どちにやあるらむ」
いふ甲斐なきもののいへるにはいと似つかはし。

※小豆粥
 小豆粥(あずきがゆ)とは、米と小豆を炊き込んだ粥。
 一年の邪気を洗うとされ、正月十五日に、宮中でもちがゆの節供が行われた。

(舞夢訳)
今日は十五日ですが、(宮中で行われていたような)小豆粥を煮ることは、(こんな田舎の船の中では)できません。
悔しくて仕方がないのですが、そのうえ、天気までよくないのです。
とにかく、ぐずぐずしていて、旅は進まず、出発当初から数えれば、すでに二十日以上も過ぎてしまいました。
(そのもどかしい気持ちは、皆同じなので)ただ、海を眺めてているだけなのです。
(例の)女の子が、次のように詠みました。

風が立てば、波も立ちます。
風が吹かなければ、波もそのままに、落ち着いています。
要するに、風は、仲の良いお友だちなのでは、と思うのです。

まあ、子供らしい歌ではあります。

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