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恐ろしい受付嬢(9)

彼女と話をしたいということは、あくまでも自分の個人的な感情に過ぎない。
彼女は、今は懲戒処分、自宅謹慎中といっても、所属はあくまでも別の企業という組織体、自分は大学に属する教員になる。
その状態で、彼女と企業の中で話をするということは、相手側企業の承諾がどうしても必要となる。
自分としては、慎重にお偉方三人の返事を待った。

会長理事が口を開いた。
「そうですね、先生がこれから気分良く、アドヴァイスをしていただくには」
「心のわだかまりを解く必要がありますね」
会長理事の言葉に、社長理事と専務理事の異論はなかった。
翌日に、専務理事と彼女の直属の上司との同席のうえ、彼女と話をすることになったのである。

翌日になった。
話をする場所は、専務理事室。
別の受付嬢の案内で、専務理事室に出向くと、既に専務理事、彼女、直属の上司が待機していた。

「本当に申し訳ありませんでした」
席に着くなり、彼女は涙ながらに頭を下げてきた。
懲戒処分も下り、自宅謹慎中を呼び出され、憔悴の上に複雑な精神状態が、はっきり見て取れる。

「ああ、いや、私としては、気にしていないので」
確かに最初は、ムッとしたけれど、今は何でもない。
「それよりも、貴方のほうが心配なので」
そう言うと、ますます涙が激しくなる。
専務理事も直属の上司も、心配そうに彼女を見ている。

自分自身も「余計なことをしてしまったかな」と思ったけれど、それ以上に何とかしなければ、ならないと思った。
少しでも、彼女の気分を変えないと、わだかまりを解くなどには進まない。
それで、話題を変えようと思った。
泣きじゃくったままの彼女に聞いてみることにした。

「私は、大学に勤める身分であるけれど、あなたの大学での学部は」
これくらいなら、無難な質問だった。

彼女は泣いていたけれど、それでも根は真面目な性格。
「はい、文学部で英文科です」
声は小さいけれど、答えてきた。

続けて聞いてみた。
「第二外国語は何でしたか?」

彼女の涙がそこで止まった。
「あ・・・フランス語です」
少し不思議そうな顔をしている。

自分の中で、「ある考え」が閃いた。
この企業に「お願い」をする類のことになる。

不思議そうな顔をする彼女は座らせたまま、席を立って、専務理事と直属の上司に「お願い」をした。

直属の上司は驚き、専務理事は笑っている。

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