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土佐日記 第11話 廿九日、

(滞在地)大湊

(原文)
廿九日、大湊にとまれり。
医(くす)師振りはへて屠蘇(とそ)・白散(びゃくさん)・酒加へてもて來たり。
志あるに似たり。

※医(くす)師
 元々は、薬(くす)師。
 各国に一名ずつ置かれた医療官。
※振りはへて
 わざわざ、ご丁寧にもなどの意味。
※屠蘇(とそ)
 現代にも残る「おとそ」のこと。
 桔梗(キキョウ)、桂皮(ケイヒ)、白朮(ビャクジュツ)、陳皮(チンピ)、山椒(さんしょう)、肉桂(ニッキ)、防風(ボウフウ)などを調合する。
 元旦に飲めば、一年中の邪気を祓い、無病息災でいられるという信仰を持つ。
※白散(びゃくさん)
 屠蘇の類。元旦に酒に入れて飲んだ。
 白朮(ビャクジュツ)、桔梗(キキョウ)、細辛(さいしん)を等分に調合したもの。

(舞夢訳)
二十九日は、大湊に停泊しております。
医師(くすし)様が、ご丁寧にも、屠蘇と白散、調合のための酒まで揃えて、お持ちになられました。
なかなかに、お気持ちの厚いお方のようです。

御屠蘇の古い歴史を感じさせる。
貫之として、医師に、娘の診察と治療を願ったけれど、その甲斐もなく、娘は夭折してしまった。
だから今さら、医師の訪問を喜ばなかったという説がある。
しかし、貫之は、これから危険な航海に出る。
残された貫之一家の道中安全を考えれば、そうは思わないはず。
力及ばず貫之の娘を救えなかった医師ではあるが、その善意を素直に受け取ったと、思うのだ。
だからこそ、この日記に書き入れたと考えている。

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