土佐日記 第66話 五日、⑤
(行程)難波津
(原文)
かくいひて、眺めつつ来る間(あひだ)に、ゆくりなく風吹きて、漕げども漕げども、後方(しりへ)退(しぞ)きに退(しぞ)きて、ほとほとしくうちはめつべし。
楫取のいはく
「この住吉の明神は、例の神ぞかし。欲しきものぞおはすらむ」とは、今めくものか。
※ほとほとしくうちはめつべし
「ほとほとしく」は、「ほとんど」、「あわや」の意味。
「うちはめつ」は、「投げ入れる」「落とし込む」の意味。
あわや、海に沈みこまれるような状態を表現する。
(舞夢訳)
そのようなことを言いながら、風景を眺めて船をを漕ぎ進めて来たのですが、思いがけなく、風が吹き始めました
(それからは)船を漕いでも漕いでも、後方に押し戻される始末で、あわや船が沈むかもしれないと思うまでの状態になりました。
楫取が、
「この住吉の神様は、例の神様です」
「もしかすると、何か、(奉納を)欲しがっているのかもしれません」
と言うのですが、実に、(物質的で)現代的な神様だと思います。
住吉の神は、船乗りたちに、現世的で贅沢な神(高額な奉納を求める)と思われていたのかもしれない。
「例の神」の真意は、「とかく有名な、あの⦅欲しがる⦆神様」のようだ。