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山辺赤人の不尽山を望みし歌

山辺赤人の不尽山《ふじさん》を望みし歌

天地の 分かれし時ゆ 神さびて 高く貴き
駿河なる 富士の高嶺を 天の原 振り放け見れば 
渡る日の 影も隠らひ 照る月の 光も見えず 
白雲も い行きはばかり 時じくそ 雪は降りける
語り継ぎ 言ひ継ぎ行かむ 富士の高嶺は
                    (巻3-317)

天地が分かれた時から、神々しく高く貴い
駿河の富士の高嶺を大空に仰ぎ見ると
大空を渡る太陽も隠れ、照る月の光も見えず、
白雲は進むことをためらい、その時期ではないのに雪が降り積もっている。
語り継ぎ言い継ぐことにしよう。
この富士の高嶺を。

山辺赤人は生没年未詳。聖武天皇の時代の宮廷歌人にして、古来、柿本人麻呂と並び称される歌仙。
広く各地を旅していたらしく、旅の歌が多い。
この不尽山(富士山)の歌は、訪れた駿河の地に、雄大にそびえたつ富士山をほめ、その加護を願い、旅の不安を打ち消そうとする呪術が、その原点。

しかし、単なる口先だけの呪術ではない。
詠みかえすことに、雄大にして優美な富士山の姿が浮かんでくる。
これも、山辺赤人の歌の力なのだと思う。

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