土佐日記 第41話 二十日、②
(滞在地)室津
(原文)
その月は海よりぞ出でける。
これを見てぞ仲麻呂の主(ぬし)
「我が国にかかる歌をなむ、神代より神も詠む給(た)び、今は上・中・下の人も、かうやうに別れ惜み、喜びもあり、悲しびもある時には詠む」とて詠めりける歌、
「青海原(あをうなばら) 振りさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出(い)でし月かも」
とぞ詠めりける。
※青海原(あをうなばら)~
古今和歌集では、天の原とされている。
(舞夢訳)
その(時の)月も、(今日の我々が見ているのと同じで)海から昇って来たのです。
海から昇る月を見て仲麻呂氏は、
「私の祖国では、歌を遠い神話の時代から神様がお詠みになられておりまして、今の時代では、身分を問わず、このような別れを惜しむ時や、喜びに満ちた時、悲しさに沈む時にも、歌を詠むのです」
と語り、(次の)歌を詠まれたのです。
美しい月夜の下を、青々と続く大海原を、(故郷を思い)ずっと遠くまで眺めて見ると、(今、昇って来た)月は、我が故郷の奈良春日に昇る月と同じとわかるのです。