笠女郎が家持に寄せる歌(7)あらたまの 年の経ぬれば 今しはと

あらたまの 年の経ぬれば 今しはと ゆめよ我が背子 我が名告らすな 

                          (万葉集4-590)

※あらたまの:年にかかる枕詞。

関係を結んで長い間過ぎて、年も改まりました。

でも、もう今は大丈夫と思ったとしても、貴方は決して私の名前を口にしないで欲しいのです。

やはり身分差のある恋。万が一でも他人に知られれば、酷いことを言われたり、されたりして邪魔をされるのは目に見えている。

しかし、そんなことにはなりたくない。家持様との関係を途絶えさせたくないのが本音、だから決して私の名前を口に出すなと、せがむ。

さて「我が背子」は、「私の愛しい貴方」の意味で、万葉集中では百例を超える、ありふれた愛情表現。

しかし、笠女郎が家持に寄せる恋の歌二十九首の中では、この歌のみ。それだけに、必死にしがみつくような思いが、この歌には込められている。それだけ危険な予感や不安があったのだと思う。



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