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健さん(30)健は、ひとみの母の金目鯛の煮付けを覚えていた
健の口の中に、金目鯛の煮付けの、一かけらが入った。
そして、ご飯も続けて入る。
健は目を閉じて、その調和を味わう。
「お嬢様」
飲み込んで、健はひとみの顔を見る。
ますます、ひとみは、心臓が痛いほどになる。
健は、やさしい笑顔。
「ありがとうございます、こんな美味しい金目鯛の煮付け、久しぶりです」
ひとみは、肩の力が、ドスンと落ちる。
しかし、健の「久しぶり」が気にかかる。
ひとみ
「伊豆長岡のご実家でも?」
つまり、伊豆長岡も海が近い、同じような味付けだったのか、と思う。
しかし、健は首を横に振る。
「いや、実家の味は、もう少し甘い」
「俺は・・・」
と言って、ひとみの顔を真っ直ぐに見る。
ひとみは、ドキドキして、何も返せない。
健は、泣きそうな顔。
「お嬢様の・・・お母様がリハビリで・・・同じ味の」
「だから、これは、お嬢様のお母様の味」
ひとみは、ここに来て、完全にペタン座り。
「見抜かれた」と思うけれど、今さら仕方がない。
と同時に、健の味覚の記憶にも、驚く。
健は、再び金目鯛の煮付けに向かった。
そして、背筋をピンと伸ばし、食べ続ける。