笠女郎が家持に寄せる歌(6)衣手を 打廻の里に ある我を
衣手を 打廻の里に ある我を 知らにそ人は 待てど来ずける
(巻4-589)
※衣手:布を砧で打つことから「打廻(うちみ)」にかかる枕詞。
※打廻の里:明日香川を廻る里で、奈良県明日香村の雷丘付近。
貴方は、私が打廻の里にいることを知らないので、ずっと待っていたのですが、来てくれなかったのですね。
そして、笠女郎は、旧都の明日香村にいる。
家持には、それを伝えてはいない。
だから、ずっと待っていても来なかったのですね、と一人だけで納得する。
大伴家持の気持ちは、実は笠女郎から離れかけていたのかもしれない。
男は、本当に好きな女であれば、なんとしても探し当てるものだから。
また、笠女郎も、それをしない大伴家持に不安を覚えた。
だから、「来ないのは、私の居場所がわからないから」と、懸命に自分を納得させる。
打廻の里にいることは、実は家持の衣を打っていたのかもしれない。
古来、衣を打ながら夫の帰りを待つのは、妻の務めでもあったようだ。
夫が来ないのに、訪れがないのに、衣を打ち続ける妻。
その打つ音、一つ一つに、待つ女の愛と、寂しさがこもる。
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