笠女郎が家持に寄せる歌(9)闇の夜に 鳴くなる鶴の 外のみに
闇の夜に 鳴くなる鶴の 外のみに 聞きつつあらむか 逢ふとはなしに
(万葉集巻4-592)
闇夜に鳴く鶴の声のように 遠く離れて貴方の噂だけを聞くことになるのでしょうか、お逢いすることもないのに。
漆黒の夜、聞こえてくるのは鶴の鳴き声だけ。
その鶴に近づこうとしても、暗くてたどりつけないかもしれない。
もし、たどりつけたとしても、鶴は逃げ去ってしまうでしょう。
貴方も同じこと、逢うこともできず、噂だけを聞く。
この歌には、「私が近づけば、貴方は逃げてしまうの?」という不安と悲しみが込められていると思う。
笠女郎は、家持の「心離れ」を、感じ取っているのだろうか。
そんな気がしてならない。