土佐日記 第34話 十七日①
(滞在地)室津
(原文)
十七日、曇れる雲なくなりて、暁月夜いとおもしろければ、船を出して漕ぎ行く。
このあひだに雲の上も海の底も同じ如くになむありける。
むべも昔の男は
「棹は穿つ 波の上の月を。船は圧(おそ)ふ 海のうちの空を」とはいひけむ。
聞きされに聞けるなり。
※昔の男
唐の詩人買島(865年没)
※棹は穿つ 波の上の月を 船は圧(おそ)ふ 海のうちの空を
棹が波に映る月を突き刺し、船は波の底に広がる空の上を漕いで進む
(舞夢訳)
十七日になりました。
(昨夜まで空を覆っていた)雲がいなくなり、夜明け前の月が素晴らしく照っているので、船を出して漕ぎ始めました。
船の上から眺めておりますと、(我々は)空の雲の上も海底も、(月の光を受けて)同じように見えて来るのです。
そこで思い出したのが、昔の立派な人(唐の詩人買島)が詠んだ
「棹が波に映る月を突き刺し、船は波の底に広がる空の上を漕いで進む」の名文です。
(この名文は、何とはなしに、耳にして覚えているのですが)