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維摩VS文殊菩薩(5)

維摩に病気見舞いの挨拶を述べた文殊菩薩は、部屋を見回して、維摩に尋ねた。
「維摩さん、この部屋の中には、何も無く、仕える人もいないようです」
「その理由は何でしょうか」

維摩は答えた。
「諸仏の国土もまた、空なのです」
「つまり、全世界も、また空なのです」

文殊菩薩は、重ねて尋ねた。
「何故、全世界が空なのですか」

維摩は答えた。
「理屈ではありません」
「空であるから空なのです」

理屈がない、つまり無分別が故に空であるということ。
是非を問わず、無駄な妄想を廃し、そのままに見る。
先入観にとらわれずに、素直に対象を見る。

我々は、世間で他人が言っているから、どこそこの本に書かれているからと、先入観で物事を見てはいないだろうか。
しかし、世間で他人が言っていること、どこそこの本に書かれていることは、本当に正しいのかと、自分自身で確かめたのだろうか。
そんなことをせずに、他人の目で、他人が書いた本の知識をもとに、自分本来の目を曇らせて、対象を見ているのではないだろうか。
そして、そんな目で見た判断が、本当に自分の判断なのだろうか。

「やや理屈に走る」文殊菩薩の問いかけを、維摩は「くだらぬ理屈を捨てよ」と、喝破の姿勢を見せている。

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