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理想のタイプ(1)

ぼんやりと大学の図書館にいた。

秋も深まっていたので、暖かい窓側の席。

書架から持ち出した「ガリア戦記」は、なかなかページが進まない。

ページが進まないと、課題も提出できない。

期限は、あと3日しかない。

おまけに貸出用のカードを忘れてきてしまった。

なんとかここで読むしかない。

さすが名文家カエサルの淡麗で深みのある文章は、敬意を覚えるがけれど何しろ登場する各部族の名前に馴染みがないし、何回読んでも忘れてしまう。

次第に、眠気も強くなる。

実に不謹慎だとは思うけれど、目の前の活字はすでにぼやけている。

「ちょっとだけ」

のつもりで、ガリア戦記を閉じる。

シオリをはさむ余裕がないほど眠い。

ふと、お花畑にいるような感覚。

花の香り。

それにしても近い。

プルメリアかな。

脇腹に何かあたる感覚。

強くはない。

トントンではない。

ツンツンだ。

「あれ?」

ぼんやりとツンツンの方を見る。

「わっ!」

つい声を出してしまった。

「わっ じゃないでしょ」

「失礼な」

そういいながら笑っている。

「難しい本読んでるのね」

「はい。」

ちょっとドキドキ。

同じ部活。

最近、近くのアパートに越して来た。

といっても、駅でバッタリあって、そうだとわかった。

美人で優しくて、文学に詳しい。

まずもって理想のタイプ。

もちろん、そんなことは恥ずかしくて言えない。

「もうすぐ図書館閉館だよ」

「あっ・・」

時計を見る。

確かにそうだ。

ちょっと冷や汗。

「その本なら私の部屋にあるから、貸してあげる、帰ろう」

「はい、助かります」

全くもって本音。

「まあ、せっかく近くに住んでいることだし、君にもちょっと興味あるし」

「興味?」

「風変わりな文章書くし、雰囲気がなかなかね」

「雰囲気?」

「まあ、二重瞼で眼が大きくて、まつ毛が長い、色白で・・・」

「そういう雰囲気って?」

いったいどんな雰囲気なんだと思う。

「まあ寝顔が最高でね」

彼女は、ぷっと吹き出した。

「えっと・・」

言葉を返せない。  

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