戯れに僧を嗤ひし歌一首
戯れに僧を嗤ひし歌一首
法師らが 髭の剃り杭 馬繋ぎ いたくな引きそ 法師は泣かむ
(巻16-3846)
法師が報へし歌一首
壇越や しかもな言ひそ 里長が 課役徴らば 汝も泣かむ
(巻16-3847)
坊さんが剃り残した髭に、馬をつないで思いっきり引くなどは、やめなさい。坊さんが泣いてしまうから。
檀家さんたち、そんな酷いことを言ってはいけません。里長が課役を取り立てに来たら、あなたたちも泣くのだから。
相当に嫌われていた僧侶か、よくわからない。純朴な人々に、死後の恐怖などを説き、布施を集めるのに熱心だったと思われる。
(当時も)僧侶には課税もされないから、布施をしたところで、何の御利益もない人々からは、ますます不満がたまる。
だから、からかいの歌も詠まれる。
しかし、僧侶も馬鹿ではない。里長の課役徴収で泣く人々をしっかり見ていて、嗤い下す。(その原因が、布施を納めさせ過ぎた自分にあったとしても)
純朴な人に、死後の恐怖を説き、その純朴な人の生活を壊すほどの布施を集める。
集めてしまえば、布施をした人の、その後については「野となれ山となれ」。
その構図は、現代でも、全く変わっていない。