角上の寿司を普通のスーパーの寿司と同じと思ってもらっては困る【普通の主婦 富士村ふじ乃のスーパーな日々 2カゴ目】
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この物語は、「自称:地元スーパーマーケット研究家」の富士村ふじ乃さんが、地元スーパーをこよなく愛し、地元スーパーでおいしいものを探し、この上なくおいしく食す日常を描いた、かぎりなくエッセイに近い小説風なものです。
▽ふじ乃さんがどんな人か気になったら…
この物語は、現実と妄想のはざま、フィクションとノンフィクションの間からお送りします。
地元スーパーのおいしい食材やお惣菜、スーパー自体の楽しみ方をお伝えできたらうれしいです。
第2回目の今回は、主人公ふじ乃さん家族にとって、大事な記念日のお話です。
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ふじ乃さんは、集中していた。
両手にもつ、ビニールの袋。その中に横たわる四角いケースを地面と平行に保つことに全神経を集中させ、かつ足早に歩いている。
陽ざしが熱い、5月の晴れた日。
肩には、ずっしり、抱っこ紐のベルトが食い込む。光もずいぶん重くなったなー。ちょっと、手もしびれてきた。
いま、ふじ乃さんは、お寿司を運搬するという重大任務を遂行している。
ミッションインポッシボー。
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今日は、ふじ乃さんと陽次郎さんの結婚記念日。
子どもが産まれる前、ふじ乃さん夫婦は結婚式をあげたチャペルに併設されたフレンチレストランで結婚記念日をお祝いするのが恒例だった。
その後、ありがたいことに3人の子どもに恵まれ、フレンチレストランでの食事は遠い過去のものとなった。
子どもたちが小さい今、高級なお店には連れてけないし、家でも凝ったものは作れない(ふじ乃さんはおいしいものが大好きで料理も好きだけど、凝った料理はあまりできない)。
そんなときは、お寿司。そう、相場が決まっている。
ふじ乃さんが小さい頃からそうだった。
いわゆる田舎と呼ばれる緑と畑あふれる地方の出身だからなのか、まわりに家族や親族が多く、お祝い事にはいつもたくさんのひとが集まった。そんなとき、家での食事のお祝いムードを盛り上げてくれるのは、やっぱり、お寿司。
とはいえ、当時は出前も簡単ではなかったし、いつもスーパーで買ってきたお寿司だったけど。
スーパーのお寿司は、悪くないんだけど、やっぱり鮮度が落ちる。
スーパーのお寿司以外には、ほぼ回るお寿司しか食べたことのないふじ乃さん、この独特の、若干かおる生臭さが苦手だった。
特に白身の魚だと、目立つ。というか、鼻立つ?いや、鼻につく?
今、住んでる水木町に越してきたのは、長男の充が産まれるちょっと前の事だ。偶然近くに住んでいた知り合いに教えてもらったのが、角上魚類だった。
「とにかく、新鮮でおいしい魚介類が安く手に入るから!行ってみて!」
この言葉に嘘はなかった。
その後、かの有名な、すごい企業を取り上げる番組「ガイアの夜明け」でも取材され、それをみていたふじ乃さんは、ますます角上魚類のファンになった。
以下、「ガイアの夜明け」で角上魚類が取り上げられた回の紹介文より。(日経スペシャル「ガイアの夜明け」 1月11日放送)
巨大鮮魚チェーンの「角上魚類」は新潟や関東を中心に20店舗を構え、年間売上高は200億円を超える。「直販すればスーパーの半値で売れる」という発想から、流通の仕組みを見直し、「活きの良いものをより安く」というモットーを実践してきた。各店舗には、朝から客が押し寄せる。
人生には、たくさんのお祝い事がある。
子どもが産まれたときはもちろん、お宮参り、お食い初め、ハーフバースデー、七五三、入園…エトセトラ。
子どもが3人生まれ、それぞれの色んなお祝い事のときには、決まって角上のお寿司やお刺身でお祝いするのが恒例となった。
両家の親族がたくさん集まるときにも、角上のお寿司やお刺身は、きらきらと魅惑的な光をたたえながらテーブルの上に整然とならび、みんなの心までも華やかにしてくれている。
お祝い事の中心には、いつも角上のお寿司やお刺身があった。
ふじ乃さんの父などは、この角上のお寿司やお刺身を食べたいがために、ふじ乃さんちにやってくるといっても過言ではないくらいだ。
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ふーーー。
やっと家にたどりついた。
ドアの前に立ち、両手に持ったビニール袋を傾けないように、どうやって鍵あけるかな〜と思いあぐねていると、ふとドアの所に見慣れない変な虫がくっついているのをみつけた。みつけてしまった。
このままドアを開けたとしたら、そのまま家の中に虫が侵入するかもしれない。
それは、絶対に、阻止したい(子どもたちは、喜ぶかもしれないけど)。
もーこんな時に限ってなんだよーやめてよー。ふじ乃さんは脳内で悪態をつきながら、ちょっと神経の集中をといてしまった。
注意すれば大丈夫かなと、ビニールの袋をもった手を持ち上げ、指の先っちょで変な虫をちょんちょんして、あっちにいきな~とどかした。
その時。
がちゃ…。いやーな音がした。少し、お寿司のケースがずれる音。
あちゃー。やはり、やってしまった。
スーパーのお寿司は、運んでるときにずれやすい。いくらがこぼれたり、お寿司が寄ったりすると、すごく残念な気持ちになるから、ここまで慎重に運んできてたのにー!後悔先に立たず。まさか、変な虫にやられるとはね。
いくら角上のお寿司といえど、この運命からは逃れられない。
ふじ乃さんにとって、スーパーのお寿司を無事に運ぶのは、ほんとにインポッシボーなのだ。
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子どもたちを保育園に迎えに行き、お風呂もすませてしばらく待ってみたけど、陽次郎さんは仕事が終わらないらしく、なかなか帰ってこなかった。
こんな日くらい、早く帰ってきてくれてもいいのにーという言葉は、ぐっと呑み込んで。
先に食べてるね〜とメッセージを送り、子どもたちと食べ始めることにする。
結婚記念日なのに、2人で一緒にお寿司を食べないのは、変な気がしたけれど。
子どもたちも、ふじ乃さんも、すきっ腹が限界だ。子どもたちの「おーすーし!おーすーし!」コールが止まらない。
大人は10貫入って、1000円(税別)のにした。(やっぱり寄ってる…)
スーパーのお寿司としては、そこそこ勇気のいるお値段。だけど、角上のお寿司を普通のスーパーのお寿司と同じと考えてはいけない。
本マグロの中トロ、しかも肉厚がデフォルトで入っていたり、スーパーのお寿司とは一線を画している。
だから、そこらへんの回らないお寿司を食べたと思えば、大変お安い。
ちなみに、ふじ乃さんは回らないお寿司はほとんど食べたことがない(大切なことなので2回言った)。
2人の子どもは8貫の、さび抜き。ちょっと贅沢かな~と思ったけど、充はお寿司が好きでけっこう食べる。
健は生寿司をそこまで食べないけど、兄とちがうのにしたら激怒して厄介なことになる。念には念をいれて、健用にはねぎとろの巻いたのも追加した。
まぁ残ったら、うちらが食べればいいし~うひひ。ふじ乃さんの心には、ちょっとした小悪魔が棲みついている。小悪魔といっても、男の人を誘惑する、妖艶なアレじゃなくて、ほんとに物理的にちっちゃな、小心者の悪魔だけど。
ちなみに、おいしくいただきながらも、ふじ乃さんにはよくわからなかったネタがあった。
中トロは、わかる。イカとかイクラもわかる。
白身のやつは、全然生臭さがなくて、ふんわりしてて、すごくおいしかったけれど、なんだかわからなかったので、次に買うときは店員さんに聞いてみよう、とふじ乃さんは心に決めた。
角上のお寿司は、今日も変わらずおいしいなぁ。
こんなふうに、陽次郎さんとも変わらない味でいたいなぁ。
いや、熟成マグロみたいに、熟成されてくのもいいか。
中トロ、とろけるー!うんまー!
そんなことを、とりとめなく考えていたら、充はあらかたのお寿司を食べ終えていた。健は中途半端に遊び始めてるし、寝ていた光も目を覚まし、おーい!おれのミルクはー!と叫んでいる。
「ただいま~」
やっと、陽次郎さんのご帰宅だ。
子ども3人をひとりで面倒みてきたふじ乃さんが、1番ほっとする瞬間だ。
今日も無事に帰ってきて、よかったよかった。
あ、冷蔵庫の中のお寿司が少し寄ってることは、だまっとこう。
ふじ乃さんの中の小悪魔がまた、うひひと笑った。
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【執筆後記】
今日の主役は、角上魚類のお寿司です。
角上魚類では、手軽な1人前のパックから、大人数まで、予算に合わせてお寿司やお刺身を作ってくれます。
先日、Twitterでつぶやいたら、みんな角上のお寿司が大好きなことが判明!なんだかみんなの角上愛が燃え上がったのを感じ、うれしくなってしまいました♪
※本エッセイは半分フィクションなのですが、半分ほんとのことも混じっています。
それでは、またスーパーで逢いましょう~♡
瑞季 マイミ