グザヴィエ・ドラン監督③「Mommy」
気になる監督に出会うと可能な限り追いかける。三作目は「Mommy」.。
夫を亡くした女性ダイアンと、ADHD(注意欠如多動性障害)の息子スティーヴの物語。誰がなんと言おうが、ダイアンはスティーヴを母親として愛している。スティーヴもいじらしいほど母親を愛している。ところが・・・愛し合っているのに、障害のためにお互いに傷つかずにいられない。衝動を抑えられず、時として反社会的行動に走ってしまうスティーヴ。母子にとって壮絶な戦いのような日々。
折しもこの架空のカナダでは、障害のある子のために保護者が著しく疲弊、困窮した場合に簡単に施設に入所させることができる法案が成立したのだ。
こう言ってしまうと、社会問題について告発している映画みたいだけれど、ドラン監督の場合、そういう訳ではないという気がする。
まず第一に、文学で言えば「私小説的」な匂いがするということ。フィクションだけれど、親子関係の微妙なニュアンス、少年の感性は、まだ二十代のドラン監督の体験が反映されていると考えるのが自然だから。
実際、ドラン監督は自分がゲイであることを明言している。
そしてドラン監督の感性は、洒落た音楽に彩られた息をのむほど美しい映像を創造していく。そのセンスは紛れもなく若くて繊細な、傷つきやすい青年のものであり、クリエイトすることにより様々なものを昇華しようとしているのではないかと思う
ドラン監督の映画はエンターテインメント性を追求する映画ではないので、アメリカではあまり評価されなかったらしい。しかしフランスなどヨーロッパでは高く評価されたということだ。う~~ん、分かる!
だから多分、ドラン監督にハマるわたしみたいな人と全然興味をもてない人に分かれると思う。
わたしはハリウッドタイプの映画も観るし、嫌いじゃないけど、こういう心の機微を繊細に表現したり、映像がセンスよくて、音楽が素晴らしいという映画は大好物だ。
愛しあいながらも苦しむ母子だが、楽しい時間も確かに存在していたのだ。そして母親は息子の幸せを夢見ることをけっして諦めない。その場面の映像も音楽も最高に美しかった。
息子スティーヴが愛情と自由を感じて(求めて)明るい光の中を進む・・・。
彼らの未来を応援したくなるラストだった。