ダウンロード__9_

サラエヴォの銃声

 何もできることがなくても、知ることは大切だと思う。

 ダニス・タノヴィッチ監督「サラエヴォの銃声」を観た。2016年公開のボスニア・ヘルツェゴビナの映画だ。予備知識はなかったのに、思わず手にとっていた。その理由は、東欧の歴史に興味を持っていたからで、特にエミール・クストリッツァ監督の作品を鑑賞することによっていろいろと調べ始めたことが大きい。(坂口尚の「石の花」もそうだけど)

 サラエヴォと言えば、「サラエヴォ事件」がすぐに思い浮かぶ。世界史でさら~っとなぞっただけだったので、今まではあまり知らなかったし関心もなかったけど・・・。

 1914年、オーストリア・ハンガリー帝国の皇太子夫妻がサラエヴォを訪問中に暗殺され、それがきっかけで第一次世界大戦が勃発する。

 これだけ。う~~~情けないわたしだったなぁ。

 この映画は、そのサラエヴォ事件から100年後の記念式典が行われるホテルが舞台だ。ルキノ・ヴィスコンティ監督の「家族の肖像」みたいに、ホテルの建物内だけが舞台。そしてホテル内の様々な場所で、主要人物たちが同時進行でそれぞれのドラマを描いていく。タイマーはないけれど、「24-TWENTY FOUR」みたいな感じで緊迫感がある。

 ホテルの屋上ではTV局の記者がインタビューをしている。そこで語られるのはサラエヴォ事件のこと。(皇太子夫妻が銃撃されたのは表紙画像に使わせてもらった「ラテン橋」の上だ。)二番めにインタビューを受けているのは狙撃者と同じ名前のセルヴィア人。彼らの発言が大変興味深かった。今まで知らなかったボスニア・ヘルツェゴビナの複雑な背景が伺われたからだ。

 VIPルームの賓客は式典でスピーチすることになっているお偉い方。部屋で延々とスピーチの練習をしているのだが、その演説内容にも興味をもった。それぞれの立場でそれぞれの捉え方があるのだね。

 どの立場にも肩入れせずに、登場人物たちにそれぞれの考えを語らせているのだなと気付いた。

 その他の主要登場人物は、ホテルのフロントで働いている美しい受付主任。その母親はリネン室で働いている。どちらかというと経営者側に立つ娘と、記念式典当日にストライキを主導することになった母親立場の違いと母娘の愛。このドラマもなかなかだった。
 赤字続きで従業員への給与も二か月未払いというホテル。従業員たちも我慢の限界なのだが、支配人はなんとかホテルを持ちこたえさせようとする。そのためには、かなり汚い手を使ってスト潰しにかかる

 そして・・・!?

 また事件は起こる。

 こういう民族問題は過去も現在も絶えることなく続いている。以前の記事でも呟いているが、とても無力感でいっぱいだ。
 でも、知らないよりは知った方がよいと信じたいな。

 ホテルの中だけで、世界を描き、人間ドラマを描いたこの映画「サラエヴォの銃声」を観ることができてよかった。