【少女小説】ミスミ先生の犠牲になります
【ご注意!!】
*交通事故の話が出てきます。
*12歳の少女が強く思い詰めます。周囲の愛情と本人の努力で持ち直します。
「そんな話は読みたくない」と少しでも思われた方は、本文閲覧を延期して下さいますようお願い申し上げます。(※気が変わったら読んで下さい。五体投地)
↓詳しい解説【音声】
【あらすじ】
地球によく似た惑星ミラでは、人間ではなく獣人達が人間とよく似た日常を営んでいる。
惑星ミラのシレン国に住むニコ(12歳の少女)は、家の手伝いで買い物をした帰り道、手を引いていた妹と購入品の重みでよろけて車道へと転げ落ちてしまう。そこを通行人の男性(カトゥ)に救われるが、カトゥは交通事故で死亡。カトゥがニコと良く似た獣人と結婚直前だった事もあり、事故がテレビニュースで報道され、ニコは罪悪感と心無い言葉に追い詰められて行く。
憔悴したニコにある日、カトゥの父(コロ)からカトゥの墓参りをしようと連絡が入る。ニコはコロと会い、カトゥを死なせてしまった償いをしようと決心するが……。
【主な登場獣人】
ニコ/ 12歳。アムール虎獣人。臆病だが一生懸命な女の子。170cm47kg(成長期。背だけ先に伸びた)
ミスミ/ 29歳。アムール虎獣人。大学院の非常勤講師(比較神話学)。大の大人なのにフィールドワークを「冒険だ!」と言い切れる。215cm
コロ/ 74歳。ベンガル虎獣人。大学教授(比較考古学)。おじいさんじゃない、とーさんだよ。190cm
カトゥ/ 32歳。ミスミの兄。婚約者ジンタと春に結婚予定だった。
コハナ/ 8歳。ニコの妹。
ミドリ/ 29歳。ミスミの双子の妹。大工の棟梁の奥さん。
リンドゥ/ 51歳。大学准教授(建築防災学)。コロの妻、カトゥ・ミスミ・ミドリの母。
ミモザ/ 30歳。ハジメマシテ村の小学校教師。
ウルティマ/ 29歳。ミモザの弟。ミモザと同じく小学校教師。
カスミ/ 61歳。コロの妹。小学校の校長。
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『ミスミ先生の犠牲になります』
***
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【コロ編】
カトゥは僕の後をついて、僕の真似ばかりしていた。
「とーさん! ぼくね、むだなことがすきだな~!」
「とーさん! ぼくね、オトナになったらこうこがくしゃになる! ぼくね、とーさんといていい?」
それなのに反抗期に入るや否や「私」と自称し、吹き出さないのに苦労した。
やがて考古学部を卒業し大人になったカトゥは、僕の後をついて回る甘えん坊だったのが噓の様に自立した男となった。あまり自分自身を語らず、習い事教室の経営に打ち込み、面倒見が良く優しい性分だった。それなのに僕の真似が残り「私は無駄な事をするのが好きだ」等と似合いもしない言葉をしばしば口にした。
……何故、僕ではなくカトゥが死んだ。
親子なのだから、親の方の命を先に取れば良かったではないか。そんな考えが無意味である事は重々承知だ。しかし、僕の方の命を取れば良かったではないかと言う考えに取り憑かれ、抜け出せずにいる。
カトゥが命を捨てて救った兄妹に会えば、この生産性のない嘆きの出口が見えるだろうか。
いつの間にやら日が落ち、書斎は暗くなっていた。
卓上ライトを灯し、引き出しから便箋を取り出して、漫然と浮かぶ事どもを書きつけ書きつけ考えた。
他の家族には反対されたし、唯一付き合ってくれると言うミスミが帰国するまでには少々時間が掛かる。
先ずは僕1人で会いに行ってみようか。
ふと手元を見やると、便箋は良い年をした者の涙で使い物にならなくなっていた。ただ捨てれば良いものを紙飛行機など折り、カトゥの写真に放ったつもりが書斎の角の暗がりへと墜落して行った。
もうカトゥに僕の言葉は届かない。
それが……何だと言うのだ。それでも僕は無駄な事をするのが好きだ。
ピーカンの午前中。
カトゥの葬式ぶりで兄妹2人と再会した。教会の墓で眠るカトゥも2人との再会を非常に喜んでいるだろう。
カトゥが命を捨てて守ったこの兄妹は、カトゥの婚約者のジンタとその妹のスリと非常に似通っている。特に後ろ姿は瓜二つだ。
それでカトゥは見間違いを起こし、見ず知らずの兄妹を救ったのだと報道されている。だが僕は承服し兼ねる。カトゥは面倒見が良く優しい性分だ。見間違えずとも救ったに相違ない。
それにしても、お兄ちゃんが元々短かった髪をさらに短く切ってしまった事には内心驚いた。
まるでジンタとたまたま似通った髪型をしていたのを、非常に重い失態と捉えているかの様だ。そんな事はこの子の咎ではない。2人が車道に飛び出してしまったのも、重い荷物を小さな体で運んでいた為と聞き及んでいる。
そもそもこの2人の両親は事故の際に何をしていたのだろうか?背格好こそ似ているものの、お兄ちゃんはジンタよりも遥かに年下の筈だ。
今も両親の姿が見えないのが非常に気に掛かる。
尋ねようとしたらば、お兄ちゃんが疲れ切った様子で崩れ落ちて土下座し、大いに慌てた。
「……謝られても、ご不快でしょうが、本当に本当に、申し訳ございません……」
さも蹴ってくれと言わんばかりに、お兄ちゃんが頭部を僕のつま先へ持って来る!一方妹ちゃんは無言で立ち竦み、姫の様なスカートを固く両手で握りしめている。今から殺されるのを覚悟しているかの様に。いやまさか、僕がそんな事をする筈はない!大体親はどこにいるのだ!?
「いや。いや。立っておくれ。僕はただ、カトゥが命を懸けて守った者を大切にしたくてな……」
必死で辺りを見回したが、この2人の親らしい影はない。小さな教会の墓地には誰もいない。
「あの、ご家族は……?」
「…………」
「どうやってここへ? 遠かったろう? 道も分かり辛かったろう?」
「……申し訳ございません……」
「いや。いや、ご家族は……?」
「……迷惑……いえ、家族の迷惑より、カトゥさんの命が……本当に申し訳ございません……」
「まず、立とうか?」
「…………はい」
お兄ちゃんは今にも消え入りそうな声で答えてから、静かに立ち上がった。
ジンタと同じくらいの背格好の、ジンタより幼い虎の子だ。くたびれたズボンにも極端な短髪にも、泥汚れがついてしまっている。手で払ってやりたいが、やつれて弱弱しい体もボサボサの耳とシッポも強く震えている。明らかにこれから僕に処刑されるのを恐れている様子だ。僕に殺意は一切無いのだが……。
この子達のせいでカトゥが死んだとはまるで思わない。カトゥが死んだのは、大型トラックの前に飛び出したカトゥの行為故だ。それがもたらしたこの兄妹の生存の喜びを、僕は感じたいのかも知れない。だのに2人の名前が思い出せない。
「……済まないが、もう一度名前を教えてくれるかな? 良い年をした者が、声を失う程に泣き喚いてね。その際に記憶も失った様だ」
「…………妹は、コハナです」
「妹はコハナちゃんだね? それで、お兄ちゃんは?」
「………………」
お兄ちゃんは黙り込み、心苦しそうに俯いた。
まるで名乗る事さえも罪であるかの様に。最も正しい罪の償い方は苦しんで死ぬ事だから、早く僕に苦しめて殺して欲しいと願っているかの様に。辛いだろうに……涙さえ流さず、健気だ。
共にカトゥの墓を参れば、多少の想いは通うだろうか。
「……一緒に、手を合わせようか?」
「…………。…………一緒は……悪い、です…………」
「何を悪びれる事があるのだね?」
「こっちが死んで、カトゥさんが生きられたら……よかった、です……」
「一番良いのは3人とも助かる事だ。一番悪いのは3人とも死んでしまう事だ。どちらが生きるとの二択には出来兼ねる」
「………………」
「カトゥが考え、行動する事に、親の僕が口を出す時代はとうに過ぎた。だが、親は親だからね。カトゥより長く生きねばならないのなら……カトゥの遺した事を見届けたい。……髪型は、前の方が似合っていた様に思うがね。そこまで短い髪が中学で流行っているの?」
「……犯罪、者は……」
「誰も犯罪などしていないよ。ただ3人全員は助からなかったのみだ」
「…………………………」
お兄ちゃんの虎耳がぺしゃんこになり、俯いてしまった。ずっと無言で震えていたコハナちゃんが、必死でお兄ちゃんに縋り付いた。2人寄り添って震えている。本当に酷い怯え様だ。
もしや、僕がカトゥを失ったショックで失語している間に、筆舌に尽くしがたい非難を浴びて来たのだろうか。……最悪、自分の家族からも。
「……。もう、昼時だな? お参りしたら、食事にでも行こうか」
「たべていいの!?」
「コハナ……! ダメだ!」
「駄目な事はないな? カトゥさん助けてくれてありがとう、とお祈りしたら、僕らの好きな店に美味しいものでも食べに行こう」
「……帰りの電車賃も、ない、ですから……コハナしか……」
どういう事だ?
親は一緒に来ないばかりか、お兄ちゃんには往復の交通費さえ持たせなかったと言うのか?
大体、僕に何の断りもなく子どもだけを寄こす事に変更するとはどういう了見だ。全員ですっぽかすのならばまだ分かる。だが子どもだけを寄こし、交通費さえ持たせないとは……不愉快極まりない親だ。この一件のみで、親として社会人としての誠意に欠けると言い切って良いだろう。
……そうだ。
良い事を思いついた。
この機会に2人を大切にし、2人はカトゥに命を救われて本当に良かったのだと伝えよう。カトゥも罪悪感等持たれては、さぞ寝心地が悪かろう。
物言わぬ身になったカトゥの代わりに出来る事があるならば、僕は何でもしたい。それが無駄であろうとも構わない。僕は無駄な事が好きなのだから。
「プリンも、プリンアラモードも、プリンシェイクもたのんでいいの!?」
「頼んで良いよ。カトゥはとても優しいからね。コハナに美味しいものを沢山食べて欲しいのだからね? それにカトゥはこの店のプリンも、プリンアラモードも好きだったよ。シェイクはチョコバナナ味が好きだったがね」
「コハナ……! みんな高いんだ。食事だけにして……」
「良いから。好きなものを注文しなさい。お兄ちゃんは何にする?」
「…………コハナが絶対残すので……処理しないと……」
「ニコちゃん、やさしいの! コハナ、だいすき!!」
「うん、うん♡ ニコちゃん、大好きだな~♡」
お兄ちゃんはニコと言うのか。
実に可愛らしい名だ。目が大きく愛らしい顔立ちも、ニコちゃんマークに似てニコらしいかな?
そう思い、向かいの席に縮こまるニコに笑い掛けると、ニコは真っ赤になって俯いてしまった。羞恥に耐えている様子だ。
それを見たコハナはキャッキャッと笑い、実にご機嫌麗しく僕の袖を握る。大人の隣に陣取り、シッポであちらこちらを叩いて我を通そうとするのがいかにも子虎らしい。
僕の3人の子ども達にも、この様な子虎時代があった。当時は野戦病院さながらの思いだったが、今となればほんの一時の煌きだったとさえ思う。懐かしくなり、膝の上へコハナを抱き上げた。
「ぴゃ~~~~♡」
「コハナ! 降りて! 申し訳ありません!」
「残ったものは僕が処理するから、ニコも食べたいものを頼みなさい」
「あの、本当に、何も……!」
「ニコ?」
僕の言う事が聞けない?世が世なら大変な事になってしまうな?
そう思いつつ微笑み掛けると、鷹揚なカトゥも、我の強いミスミとミドリも怯んだものだ。ニコも怯み、おどおどとメニューを持って見始めた。メニューが逆さだが指摘しないであげよう。
「……野菜、サンド……」
「それは1番安いものだな? 食べたいものを頼みなさいと言ったのが、聞こえなかったのだな?」
「………………トマトのピザ………………」
「それは2番目に安いものだ。ニコ……僕を怒らせたいのなら、実に上手い手だ。褒めてあげような」
「………………」
「ニコ?」
「……こ、ども、ランチ……。一度、全部食べてみたい、って」
「非常に素晴らしい選択だ」
「コハナはね! おいものドリアと、プリンと、プリンアラモードと、プリンシェイク!」
「僕はね。エビフライのフルーツソース掛けと、ホタテ貝とブロッコリーのタルタル。食後に小倉トーストとコーヒー」
カトゥを失って以来、食事を楽しむ気分とは無縁だったのだが……つい僕までつられ、あれこれと注文してしまった。
全くもって子どもの持つ力は偉大だ。
いつもの華やかなチンパンジーのウェイトレスさんがテーブルへ並べてくれたのは、見事にカトゥの好物ばかりだった。
子虎時代からずっと大好物のプリン。ジュースとオモチャのついた子どもランチ。シェイク。ミスミが発語してから2人で好むようになったエビフライ、貝のタルタル。カトゥだけが熱愛した小倉トースト。コーヒー。
カトゥは大人になってからココアを頼むのが気恥ずかしくなったのか、甘いコーヒーばかり飲んでいたな。子虎の頃は本当にココアが好きだった。ココア・あんこ・プリン。これがカトゥを喜ばせる3種の神器だ。
ココアさえあればこのテーブルは完璧だった。いや、そんな完璧はまさに無駄なのだが。僕は無駄な事が好きだ。
まずは貝のタルタルをコハナに一口ずつ食べさせながら、向かいに1人座るニコの様子を見ていた。ニコは俯き、こどもランチのサンドイッチを粛々と千切っている。
子虎だったカトゥは「子どもランチのサンドイッチだけ特別おいしい!」と大喜びし、千切って僕にも食べさせてくれたな。ついて来るオモチャをミスミがいらないと言えば、嬉しそうに自分のポケットへ入れ、ボタンを掛けて守っていた。大人になってからもメニューを見つつ「ミスミ。一緒にこどもランチを頼まないか? オモチャが欲しければあげるよ」と言って、ミスミから「俺はもう子どもじゃない」と嫌な顔をされていたな。結局あの時のカトゥは、こどもランチを食べられたのだったか?食べた時と食べなかった時があったな。本当にこのレストランには家族揃って良く通った。
「……ニコ。子どもランチのサンドイッチは美味しいか?」
「ごめんなさい……」
「美味しくて謝る事はないな?」
「…………。……はい」
よくよく考えて、ニコは「はい」とだけ答えた様だ。「でも」や「だって」と言い訳をするのさえ申し訳ないのだろう。力なく俯き、サンドイッチを本当に小さく千切っている。千切るばかりで口に運ぶ気配がないが……ニコの気持ちを慮れば、どうであろうとここに座っているだけで立派と褒めるべきだ。ニコはまるで刑の執行を待つ死刑囚の様だ。
「あの~、ごめんなさい……」
膝に乗せたコハナが、ふいに悲し気な様子で言った。
「うん? 何を謝っているのかな? コハナは」
「えーーっと、ごはんたべて、ごめんなさい。くうきすって、ごめんなさい」
「空気?」
「ニコちゃんが、くうきすって、はくと、きたなくなるんだって」
「へえ……ニコの小さな体でか? 大した吸引力と排出力だな。それがもし本当ならば、ニコはどこの戦場へ行っても敵を殲滅出来る。それで、誰がそんな事をコハナに言ったのかな?」
僕は無駄口を叩きながら、心に生まれた「苛立ち君」にドーナツの浮き輪を被せていた。そしてコハナがどんな答えを言おうとも苛立ち君が大暴れしない様、浮き輪の紐をしっかりと握った。苛立ち君、この話が一段落したら浅いプールで遊んで良いからね。
「おかあさんが、言った!」
「……うん……お母さんがね」
「ニコちゃんがしねば、みんなもっと、よくしてくれるんだって。でも、どうして? コハナがころんだの、ニコちゃんとカトゥさんがたすけてくれたのに、なんで? どうしてニコちゃんはだめなの? どうしてカトゥさんはいいの? ニコちゃん、ころさないでほしい!」
この2人の母親は何を言っているのだ?
テレビのニュース番組で「謎のヒーローに救われた小さな命。奇跡の兄妹のご両親にインタビュー」等ともてはやされ、心得違いをしてしまったのだろうか?
苛立ちを越えて腹立たしいが、一先ず僕の言いたい事はこうだ。
「……僕は誰も殺さないよ? 勿論ニコもだ」
「ころさない? ほんと?」
「本当だ。何が悲しくて、息子が命を懸けて守った者を殺さねばならないのだ。カトゥを轢いたトラックの運転手にだって怒っていないのに……当然、殺さないしな?」
運転手にだって怒っていないのにと言った辺りで、俯いていたニコが勢い良く顔を上げた。疲れ切り充血した大きな瞳が、初めて真っすぐに僕を見た。だがニコは何も話し出さない。端を千切ったサンドイッチを持ったまま、僕を見続けるのみだ。
ならば僕から説明せねばなるまい。
「ニコ。トラックを運転していたグリースを、カトゥは怒っていないのだ。だから僕もグリースを怒ったりはしないよ」
カトゥは僕に似て無駄な事が好きだったり多少ドジだったりがあるが、僕に似ずとても優しい。カトゥならば「もっと上手く助ける事が出来たら良かったのに、申し訳ない」と言う。親の僕にはそれが良く分かる。
だからグリースには僕たちが幸せになるところを見て、いずれはグリース自身も穏やかな日常へと戻って行って欲しいと僕もカトゥも願っている。そうなる様に努めるのが、今の僕に残された「カトゥと共にある方法」ではないだろうか?
「……あの事故のせいで、とても辛かったね。2人を助け、カトゥも助かっていれば……。だからカトゥはな、ニコにもコハナにもグリースにも、上手く助けられずにごめんねと謝っているのだ。楽しく幸せに生きて欲しいと願っている。息子がそう言っているのに、親の僕が怒るなんておかしいだろう?」
「……………………」
恐る恐るニコが口を開いた。しかし何も発する事無く、俯いた。
「ニコ?」
「…………」
「ニコ……。カトゥはとても優しい子だ。自分から助けに入ったのに怒ったりしないよ」
「………………」
「……良く食べ、元気に笑い、ぐっすり眠って、幸せにしていなさい」
「……………………」
「もしそう出来ないとしたら、それは決してカトゥのせいではない。カトゥは誰にも、食べるな、笑うな、眠るな、幸せになるな等と言わない。本当に優しい、僕の自慢の息子。僕の誇りだ」
「あのね! コハナわかった……!」
コハナは明るく振舞うのを止め、怯えた形相で僕に訴えて来た。
家の女性陣とは全く異なり、少々臆病な子虎ちゃんのコハナが可愛いな。コハナは、兄のカトゥにくっついて離れなかった幼少期のミスミと雰囲気が少し似ている。ミスミと似たコハナは、まるでミスミの子の様だ。コハナがミスミの子で僕の孫なら、当然ニコも僕の孫だな。尤もミスミは恋人さえいた試しがなく、泣き虫なのに永遠に独り身なのかと心配でならない段階なのだが。
「コハナ。分かってくれてありがとう。嬉しいよ」
「いじめられるから、しあわせじゃない~」
「誰に、何をされるの?」
「クラスのこ。カトゥさんはこんやくしゃがいたのに、かわいそうって。どんってされる」
「……テレビに出ているコハナが、羨ましいのかな?」
「テレビにでたかったけど、でたら、かなしいんだね」
「うん……悲しいな」
膝の上でコハナは段々涙ぐみ、悲しそうに体とシッポを丸めた。どうも孫が苛められている様で僕まで悲しくなり、小さな頭を撫でて慰めた。実際に僕が祖父なら、すぐにでも学校へ話し合いに行くのだが……。
ふと、ずっと黙っているニコが気に掛かり、コハナから視線を上げた。ニコは寄る辺ない様子で、僕たちをぼんやりと見ていた。ふいに死刑制度が無くなり、自分の処遇がどうなるのか分からずにいる死刑囚の様だ。
「ニコ」
「………………はい」
「ニコも、学校で大変なのか?」
「大丈夫です」
「それは学校に行っていないと言う意味か?」
「…………」
「行き辛い状況かな? それとも体調が悪い?」
「………………」
「答えてくれるか? ニコ」
「……もう、帰らないと……」
「ニコ?」
僕の質問に答えられない?僕に無限毛づくろいをされたいのかな?
そう思いながら家の子ども達に笑い掛けると、みな震撼して返事をした。ニコも目を見開き、恐怖にシッポを震わせ始めた。千切ってばかりのサンドイッチを倒してしまった事にもまるで気付かない様子だ。
「ニコ。もう一度、尋ねてあげような。学校へは行っていないのか?」
「…………はい」
「どうしてかな?」
「…………」
「ニコ?」
僕はただ微笑み掛けたのみだ。
だがニコの耳は引き千切れそうな程に立ち、震えた。大変な怯え様だ。しかし腕の中にいるコハナは、僕の袖を引っ張って僕を呼んだ。コハナは僕の笑顔は怖くないらしい。そういう子も居るのか。
「めいわくだから、しばらくこないでくださいっていわれた」
「……大変な事になったのだな?」
「うん! てんこうした方がいいかも。がっこうは、だいじだもんね」
「そうだね。学校は大事だ」
「ニコちゃん、おべんきょうとってもできる!」
「それは凄い。何故まだ転校しないの?」
「おかあさん、らくだから」
「一度お母さんと良く話し合わなければ」
「たべていい?」
「是非食べなさい」
コハナは安堵の笑顔で、冷めて煮え滾らなくなったドリアを自分で食べ始めた。僕の膝の上で非常にくつろいでいる様子だ。どうやら僕に慣れてくれたらしいな。
一方ニコは自分で自分を抱いて震えながら、僕たちを見ている。サンドイッチを食べる事は、もう忘れ去ってしまったらしい。皿の上で倒れバラバラになったサンドイッチが無残だ。
「ニコ?」
「…………もう、これ以上…………」
「これ以上?」
「………………」
「ニコ?」
「ごめんなさい! 帰ります!」
決死の口調で言い、ニコは立ち上がった。大慌てでコハナの小さなポシェットと自分のリュックサックを手にしたものの、僕の膝にいるコハナを見てハッとした。コハナは美味しそうにドリアを食べながら、小首を傾げている。
「コハナ……! もう帰るんだ」
「みてわからない? たべてるよ?」
「そういう問題じゃない……! 行くんだ」
「そんなすぐたべられないよ~」
「残して帰るんだ!」
「え~? こんなにたくさん、おじいちゃん1人でたべるの?」
コハナは本当に不思議そうな声を出して、僕を見上げて来た。
「ねえ?」
「なあ?」
「うう……っ!」
ニコはジタバタと焦っている。が、僕から無理にコハナを奪う真似は出来ないらしく、腕を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返すのみだ。
「ニコ……。まだ食べている妹がいるのに帰りたがるとは……。座りなさい? 座って、労わりを思い出しなさい」
「………………」
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