「愛情の伝播を事業化する」〜トラベルジャーナル2023年6月19日号掲載コラム
ぶらっとまち歩き着地型プランニングガイド vol.3 (2023/6/19)
愛情の伝播を事業化する
創業以来、まいまい京都は着実に成長を続けてきた。コース数は11年春の31コースから現在の年間約1000コースへ拡大。売り上げはコロナ禍でも変わらず右肩上がりを維持してきた。ボランタリーな取り組みが多いこの分野で、なぜそんなことができるのか。なぜ成長と拡張を続け、次々と新規事業を展開できるのか。その核心はたった一文で言い表すことができる。
「愛情の伝播を事業化する」。これこそがおもしろく持続させている秘訣である。ポイントは2つ。まず愛情の伝播を核とすること。次にそれを事業
化すること。つまりそこに対価が生まれるようにすることだ。2つのうち、どちらが欠けても成り立たない。両者が融合できたからこそ成立し継続できている。
みんな何かを好きになりたい。学びたい。驚きたい。感動したい。ただ、そうは言っても誰もが強烈に好きな対象を持つわけではない。何が好きかと
聞かれ返答に困る人も少なくないだろう。そんな時に熱烈な「好き」を持つスペシャリストと歩く時間は好奇心を呼び覚ます引き金となる。「何がそんな
におもしろいの」から始まり、ツアーを通して興味や愛情が徐々に血肉化していく。「もっと知りたい」「私も好きかも」。そうなったらしめたものだ。
愛情の伝播が起こるには興味・関心の同じ人たちが集まり、熱量を分かちあえることも大切だ。ガイドとまちを歩くことで得られる情報量は圧倒的に
多い。ちょっとした痕跡からびっくりするほどたくさんのことが読み取れたり、それに興奮したガイドの視点も研ぎ澄まされていく。そして一緒におもしろがる仲間がいることで楽しさは増幅される。ガイドも自分1人で見たり歩いたりしている時より、みんなと一緒の方が発見がある。その相乗効果こそ、かけがえのない愛情の伝播なのだ。
だから、その手段はまち歩きの枠に収まらない。コロナ下にはオンラインツアー、ライブ配信をいち早く有料モデルで実施。さらにオンラインサロンを
スタートし、現在も継続している。22年には京都モダン建築祭に立ち上げから参画。建築公開イベントには珍しい有料モデルを導入し、延べ3万人を動員した。
まちを観光する人を相手にしていた観光業はコロナ禍で大打撃を受けた。だが私たちは愛情の伝播を価値にしていたからこそ、その伝え方をオンライ
ン等に置き換えることができた。ファンは応援してくれ事業拡大は止まらなかった。手は広がっても根幹の発想は変わらない。「まちに現存するものをマニアックな愛情をもって語り直す(愛情の伝播=価値創造)」「そこに対価をもらう(事業化=需要創造)」。愛情の伝播で「好き」が増えることは目の前の世界を鮮やかに人生を豊かにする。そう確信している。