京都モダン建築祭〜トラベルジャーナル2023年8月14日号掲載コラム
ぶらっとまち歩き着地型プランニングガイド vol.5 (2023/8/14)
京都モダン建築祭
昨年11月、京都で建築一斉公開イベント「京都モダン建築祭」が開催された。京都市、京都市観光協会等からなる実行委員会と京都市が共催。市内3エリア36件のモダン建築が参加し、初開催ながら3日間で延べ約3万人が訪れ、予想を大きく上回る反響となった。まいまい京都は実行委員および事務局として京都市や実行委員会と共にこれを立ち上げ、現在も事務局を担っている。
なぜ、まち歩き団体が建築公開イベントを始めたのか。われわれにとってはどちらも根幹は変わらない。すなわち「愛情の伝播を事業化する」である。まち歩きが2時間20人で都市の楽しみ方を共有する深い愛情の伝播なら、京都モダン建築祭は愛情の伝播をまち全体に広げる大衆の祭りだ。
もっと多くの方と楽しさを共有し、まちと建築への知的好奇心を喚起したい。戦争や震災の被害が比較的少なかった京都には多くの魅力あるモダン建築が現存する。14年から続くイケフェス大阪(生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪)のように、一斉公開イベントが京都でもあったらと一市民として夢見ていた。まさか自分たちが実行する側になるとは想像もしなかったが、まち歩きの規模と方法を拡張したものと捉えれば、関わる理由も意義もある。何より、やりたくてたまらなくなった。 課題は多々あった。スキームをどうするか。予算は。組織は。果たして建築主は公開してくれるのか。世界のオープンハウスが無料を原則としているのを横目に、われわれは持続性を遠望して参加費を頂くことにした。また、個別料金ではなくパスポート制に。お目当ての建築だけを見るのでなく、まちをうろうろしてほしいからだ。
人生は経験の合計であり、まちは人の営みが積み重なった時間と空間の総体。まいまいツアーはガイドの視点で切り取り、2時間で1つの物語として語る。建築祭は参加者が好きに公開建築を見て歩くものだが、まちという文脈から切り離された建物だけをモノとして見るのでなく、街並みごと味わってほしい。堆積する営みのレイヤーに思いを馳せ、建築がそこにある意味を感じてほしい。
試行錯誤を重ねて開催した初回は、課題は山積ながらも成功だった。「祭」と呼ぶにふさわしい大反響の3日間を終えて胸に残ったのは、専門家ではない一般市民が見学者として訪れ、あらためて京都のまちを形作る建築の価値が共有されたことのインパクト。愛好家や学者だけでなく大衆が参加した。社会が動く前兆だ。
変化は起こり始めている。京都の成功に機を得て神戸が動き出し、今秋、神戸モダン建築祭が初開催される。2年目の京都は期間もエリアも拡大し参加建築数は倍増となった。水面下では東京建築祭の企画も始動。このうねりが全国に広がるムーブメントになっていく予感がしてならない。