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参加者さんと呼ぶ理由〜トラベルジャーナル2023年9月18日号掲載コラム


まいまい京都/東京は、旅行業界専門誌「トラベルジャーナル」でも毎月連載中。今回はトラベルジャーナル2023年9月18日号に掲載されたコラムをnoteにて公開いたします。TRAVEL JOURNAL ONLINE https://www.tjnet.co.jp/

ぶらっとまち歩き着地型プランニングガイド vol.6 (2023/9/18)

参加者さんと呼ぶ理由

私たちは「お客さま」とは呼ばず「参加者さん」と呼ぶ。われわれのツアーは一方的なサービスの提供ではなく、参加者、ガイド、スタッフが一緒に価値をつくり上げていく共同プロジェクト型事業だからだ。同様に「商品」ではなく「ツアー」、「販売開始」ではなく「受付開始」。言葉から価値観を共有していこうと考え、そう統一している。一般的な旅行会社や観光事業者との違いといえるだろう。

 私はかねがね、いまの日本の旅行・観光は面白くないと不満を抱いてきた。現在、観光は旅行の付属物と化している。本来、観光は「国の光を観る」意で、単なる遊興や保養やレジャーではなかった。だがいまや、観光客、観光名所、観光果樹園、観光公害、観光案内所。観光と付く言葉から浮かび上がるのは群れをなす旅行者の姿だ。そして旅行業とは法律が定める通り運送または宿泊サービスの代理業。つまり鉄道・バス・航空等の運送事業者とホテル・旅館等の宿泊事業者、そしてそれらの代理店を旅行のメインプレーヤーだといっている。

 だが、移動と宿泊は本当に旅行のメインプログラムなのだろうか。そんなはずがない。それらは本番の前後を担うもので、メインプログラムはその土地をどう楽しむかにある。光を観ることといっていい。しかし観光地でそんな体験をできるケースは残念ながらまれだ。いままでの旅行・観光業界は大量のお客さまをさばくために、オートマチックに観光というパッケージを消費させてきた。

 そこで必要なのはまちをどう楽しむかを提供するプレーヤーだ。そしてお客さまとして一方的に受け身なだけではこのプロジェクトは完遂しない。楽しさを全身で享受するには主体的な参加が欠かせないからだ。愛情を伝播してくれるガイド、前のめりで共に楽しさを発見していく参加者。両者をつなぎ、その相乗効果を最大化させていくスタッフ。それぞれの情熱が相まって、その日その時その場に一期一会の共同体験が生まれる。

 言葉にすれば「脱消費者」となるだろう。だが理念より先に実態があった。その方が楽しいから、そうしてきた。だから例えばスタッフは参加者を気にかけながらも、同じように笑い、相づちを打ち、時にはガイドに質問を投げかける。食事付きのツアーでは、スタッフも参加者と同じテーブルに着いて共に食事を楽しむ。団体バスツアーの添乗員のように食事時に姿を消すことはしない。参加体験の楽しさや満足度の最大化を目指すなかで、こうしたスタイルが自然と生まれてきた。

 まいまい京都はガイド・参加者・スタッフが一緒につくり上げてきたという実感は、そのような出来事の積み重ねの結果だ。いまならそれはコミュニティーともソーシャルキャピタルとも呼ばれたりする。これこそ、観光の本来に立ち戻るあり方だと確信している。

以倉敬之(いくら たかゆき)

合同会社まいまい代表。高校中退後、バンドマン、吉本興業の子会社勤務、イベント企画会社経営をへて、2011年「まいまい京都」創業。NHK「ブラタモリ」清水編・御所編・鴨川編に出演。共著に「あたらしい『路上』のつくり方」。京都モダン建築祭実行委員、神戸モダン建築祭実行委員、東京建築祭実行委員。

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