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山口のウユニ塩湖に行った

一度も口にしたことがないかもしれない場所
飛行機のセールがあると、数カ月先のたのしみを予約して、当日バッグ一つで飛行機に乗る。私はいつか、成田にビニール袋1枚で現れたという森田剛になりたい。

空港が好きで、やることなんてないのに早く行きたくなる。
一番安いチケットから、山口県の宇部空港を選んだ。多分今まで一度も「うべくうこう」と言ったことがないかもしれない、と思ったから。

到着ロビーの小さいドアが開いた途端、ものすごい寒気と風が雪崩込んできた。地面が濡れていて、朝は雪だったという、それは寒かろう。

出迎えふぐ

バスに乗車していたマダムが、わざわざ一度下車して私の乗りたいバスを一緒に探してくれた。緑の小さいバスが来るから、それに乗るのよ!くるりーなよ!
くるりーな。かわいいバスがくるんだな。

海沿い、お寿司
検索して着いたのはショッピングモール二階の回転寿司だった。東京だったらこういう店構えは…と一瞬躊躇うような。目が合ってにこっとカウンターに案内してもらえたことにほっとして、お茶を作る。慣れている風に。

それは一皿ごとにわあ…と漏れるほど美味しいお寿司だった。炙った鰆をまたたべたいなあ、平貝の貝柱も鰻巻きも、と食べている時から思っていた。結局初心者の私は頼まないと来ないガリを頼めず、サビ抜きも途中からになってしまったけど、優しい板前さんとぽつぽつ話しながら握ってもらえるお寿司にとても満足した。
サンドラッグの店内で冷たい風から身を守る術を真似して、バスを待った。

わあ…
すごく広い



そのバス停で降りたのは私だけで、その日一番寒く感じた。
人も音もなく、雪の日の朝みたいにしんとしていた。本当にこの先に、行ってみたい海があるのかな。Googleマップを見る指の感覚がなくなるほど寒い。何やってるんだろうと思う、いつもいつも。

一日に干潮の前後二時間だけ、見られるらしい景色を見てみようと思って歩いた。

民家の隙間からそっと光と海が見える。潮の匂いはしない。人もいない。人間に会わないで過ごした時間の最長記録かもしれない。


引き潮
波はもうかなり遠くなっていて、海だった場所は風紋になっていた。本当に「〜」の模様になるんだなと思った。

その日は弱風があって完璧ではなかったけれど、夕暮れの強い光が浅くなった水面に照りつけて、合わせ鏡のように世界を反射していた。

ここが日本のウユニ塩湖か。

こんな寒いところに一人で来てみないと、見られなかった。音のない人もいない、綺麗な海だった。
でも人にはあったかいときに来たほうがいいよ、と強く勧めたい。

気が済むまで、満足いくまで景色を見て濡れないぎりぎりを歩き、たくさん写真を撮った。持ってきた小さいタヌキを水面に置いて、光の反射を楽しんだ。マテ貝が開けた穴が水玉みたいでそれも楽しかった。まるく積まれた石はストーンヘンジみたいだった。MOTHER2のあの感じ。異世界の空気。
世界に私とタヌキだけ。



もういいかという満足と、限界が同じぐらいに来た。自販機で買ったコーンスープが熱くてこんなに嬉しかったことはない。命を感じながら小さい駅に戻る。

風のせいで反射が完璧でない日なことも、寒さ対策ができていないところも、一人で綺麗に撮れるようなグッズを持ってこないのもいまの自分っぽかった。結構だめだけど、致命的なことはなにもない。
◯◯みたいって言わなくていいと思った。キワ・ラ・ビーチというかなり、素晴らしい名前があった。岐波という漢字も、自分の苗字だったらいいなと妄想するぐらいには、格好良かった。だからもうウユニ塩湖でなくても良かった。

ダーツの旅であじすをやったようで
この写真に写ってたのがなんだか嬉しかった

岐波から下関
ホテルのある下関まで2時間かけて移動した。乗り込む直前に部活の高校生が3人も現れ、タヌキとの世界は終わった。

下関は地下道と歩道橋を駆使できないと目の前の建物にたどり着けない、エルヘブンのような街だった。荷物が少ない私はチェックインしてもあまり身軽にならない。

目の前の料理屋さんでフグじゃなくて、ふくと鯨を食べ、下関にこれたね!と自分に満足させる。次々と入ってくる常連さんのように、私もここへ仕事終わったーお腹すいたーと帰ってきたい。

ふくの白焼きを初めてたべて、とても気に入った。
あとクジラのオバイケ。オバケ、みたいで好きだった。
すぐ向かいの和みや。みんなが帰ってくる。
お風呂に行く前に食べた

デザートに近くのケーキ屋さんでクリームブリュレを一つ買った。一つだけ、丁寧に炙ってくれて、焼け焦げたいい匂いの紙袋を持って帰る。ホテルの濃すぎるコーヒーを淹れて、寒かった日がやっと終わる。大浴場があるホテルにしていたのは天才だから、これからもそうしようと心がける。顎までお湯に浸かって、忘れないように。

起きたら、歩いて海の下を通ることに決めて、すぐ眠った。

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