最初に座った席が好き 珈琲屋グランドレ
東京の東京、東京駅の八重洲口、気高いビルの合間。長く工事をしている隣のビルの重機の影にあって本来よりもっと光が届かず控えめにある入り口。
だから私は見つけた時の嬉しさと言ったら。
全席喫煙可です、大丈夫ですか。と丁寧に柔らかに聞いてくださる。
どちらかというと嫌煙なん、だけど。お昼前とはいえ向こうに続く空間からは全く匂いがしなくてピカピカのショーケースからも伝わる大丈夫。
子供のようにはぐれないように近めの距離感でついて行くと絶対に始めてなのに奥の席に座らせてくれてやっぱり優しい。
恥ずかしくないようにすんと背伸びして座る。
見える向かいの席は小部屋のような小空間で、ああ、ここはに入れるのは特別とひと目でわかる。いつもの、と言える間柄になってからだ。小部屋の小さな窓にはうっすら外の色が写っているらしく、それは彩り豊かで飽きず、なんだ私も特等席。
喉が乾いておりでも空間に似合わせたくて背伸びして横文字を連ねたい。
アイスバニララテ、と、シナモントースト。
カトラリーを並べる所作それがとても、言い過ぎではなく美しい時間で、紙ナプキン一枚置くところから格好がよく、憧れた。
バニラシロップとアイスコーヒーとクリームの三層で現れたそれは三層こそ完璧と言い切った飲み物だった。どこを混ぜても混ぜなくても流れてくる苦味も甘みも美味しいと言いたがった。
トーストを切る渇いた音は大好き。よく切れるナイフの刃音。数回繰り返され、濃い茶色から黒のグラデーション、ぶわんと厚いトースト、みみが焦げていて焦げすぎてはいなくて私が私に焼いたのかなと思う。クリームすら別添え、だからゆっくり食べても大丈夫溶けないから。
まだ湯気が出るくらいすぐに届けられたトーストはもうそれだけで今日何回目かの嬉しい。じゃりっとする砂糖とシナモンが混じり合って、トーストは当たり前に完璧の焼き具合で当たり前をいばらないことはこんなにも格好良い。おいしい。緩めのクリームを乗せる細いスプーンは珈琲のものとは別で、連鎖が、格好良いの連鎖がずっと起こっていて、もしかしてあの奥まった入り口を見つけられたご褒美だったのかもしれない。
もう背筋は伸ばせていなくてだらしない姿勢になってしまったかもしれない、この小さな空間に何個の好きだったことがあるのか見当もつかなくなってきて、見つけてしまったことはずっと来たくなるということで、小窓を眺めたいからまたここに座れたらいいけど、いつか小部屋に行けるようになったら、カウンターの中の二人にずっと好きだったと言いたい。