第五話 子供のココロ
小学6年生の頃。
相変わらず続く、母からの心ない言動に疲労を感じながらも
私は母の意向による中学入試に合格するために
学校から電車で帰宅した後、夜11時まで
毎日5時間、ピアノを引き続けていた。
自分の進路でありながらも
当人が母に逆らい意見することができない現実を、私は黙って受け入れていた。
それは苦痛ではあったが、子供の自分は今彼女の保護を受ける以外に
生きていく道がないことを、重々理解しており
母の言動に身の危険を感じ、警察に助けを求めても
彼らも玄関から先へは踏み込むことができなかった事実を、姉から聞いて知っていたのだ。
が、その頃何より私を疲労させていたのは
私自身がピアノを弾くことに全く興味がなかったことだった。
練習中の1分は、1時間のようにも感じられ
幾度も幾度も時計を見返しながらの5時間。
学校の宿題やレッスン通いに加えて
母からの辛辣な言葉の数々を聞くうちに
私の気力は徐々にすり減っていった。
自分の全身が、まるでがんじがらめに縛られているような感覚。
それが苦しくて嫌だ、という自分の気持ちを押し殺し、黙って母に従う毎日。
嫌だという気持ちがあったところで、母に聞いてもらえるわけでも
この生活を変えられるわけでもないのに
自分は一体どうして『嫌だ』と感じるんだろう?という疑問を持っていたある時
ふとしたアイデアが頭に浮かんだ。
『嫌だ』と感じることが辛いのなら
その気持ちを感じなければいいんだ。
そうすればもう心が痛むこともなく、ラクになれるかもしれない。
そう思いついた私はその日から
嫌だ、という気持ちを感じないための練習を始めた。
練習の主な場所は、母と姉二人が一同に揃う食卓。
一番小さな私を嘲笑する母と、姉たち。
そこで黙って夕飯を食べながら
何を言われても、傷つくことのないように
氷のように硬く
無表情でいることに徹した。
最初のうちはうまくいかず
浴びせられる言葉がどうしても胸に突き刺さった。
その度に湧いてくる怒りを押し殺し、夜一人で悔し涙を流しながら
明日はもっと頑張ろうと意欲を掻き立て、練習を繰り返していくうち
段々と、辛い気持ちが前よりも薄れていくのを感じた。
が、氷のように無表情を保つことがうまくいく時もあれば
うまくいかずにやっぱり心が痛むことも幾日もあった。
一体何が、うまくいかない原因なんだろう?
どうしてまだ痛みを感じてしまうんだろう?
その原因を探るべく、自分の心を観察していた私は
ある時、興味深い事実に気付く。
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今の私が理解していることは
親が自分の気持ちを聞いて、受け止めて、理解してくれるか?
ということが、子供にとっては
『自分には愛されるだけの価値があるのか?』
という、自分の価値を見定める要因となること。
親から理解される、という経験をすることなく大人になった私は
自分の価値を感じるためにいくら努力をしても
結局自分は取るに足らない存在で
愛される価値のない人間だ、という無意識の思いが拭えることなく
それは漠然とした孤独感や虚しさ、淋しさとして現れていました。
愛とは
誰にも奪われることのない自分の価値に
自分自身が気付いていくこと。
次回エピソード6. ココロの仕組みに続きます。
辛い、という感情を切り離す練習を始めた私。
ある時、人の心の仕組みに気付くことになります。
これまでのお話
第一話
https://note.com/mailittlebridge/n/n6591073b4a37
第二話
https://note.com/mailittlebridge/n/n669dce545a1d
第三話
https://note.com/mailittlebridge/n/nd7c4c3638fc3
第四話
https://note.com/mailittlebridge/n/n7cf9bac3ee7c
Find Me In the Dark
あの頃子供だった私たちへ——
親の呪縛を解き
母との葛藤の日々を、感謝とギフトに変えた
私のストーリー。
”幸せそうな家庭” に育ちながら
母の呪縛によって感情を失った子供・Mai
ココロを忘れ、笑い方を忘れ
氷のように無表情だった私が
愛し、愛され
天職を見つけるまでのお話と
数々のWisdomを書いています。