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第八話 Departure—姉の旅立ち

「いつか自由になって、私は自分の幸せを探すんだ。」

その夢を、絶対に母に潰されてはならないと

母はもちろん二人の姉にも、同級生にも、教師たちにも一言も漏らさず
飛び立つ時が来るまでひた隠しにする決意をした私。


一方で
それまでの日々は変わることなく、気が遠くなるほどゆっくりと繰り返された。


姉たちの成長と同時に、母の異質さはますます激しくなり

私が中学3年に上がる頃には
次第に姉の一人も正気を失っていった。


自分の感情を切り離すことで、やり過ごしていた私と違い
母の攻撃を真っ向から受け止めていた彼女は

泣きながら、体を張った悲惨な喧嘩を度々繰り返していた。

その度に
もう二度と帰ってくるなと、着のみ着のまま家を追い出された姉は


友人に助けを求め、その友人の家族に保護されていた。


すると『自分の子供が監禁されている』と警察に通報した母は

何台ものパトカーをその友人の家に向かわせ

その度に姉は家に引きずり戻された。


『次に同じことしたら
お前の友達も、その親もめちゃめちゃにしてやる。』

と脅された姉は

母の攻撃が自分を助けてくれた友人やその親にまで及ぶことを恐れ

一人で母の元を逃れる手立てを、密かに準備していたのだろう

ある時、いつものように身一つで家を追い出されると

ついにそのまま行方をくらますことに成功した。

警察による捜索の手は姉の友人の家々へも及んだが

誰もその行方を知る者はおらず

成田空港で姉のパスポートが使われた形跡があったが
その時19歳になっていた姉に対し

犯罪を犯したわけではない個人の情報を
それ以上調べることはできない、という結論が下され

その日以来、彼女は行方不明となった。

すでにほとんど何も感情を感じていなかった私は

自分の姉がいなくなったことに対して、特に気に留めることもなく

姉がいなくなったことで広くなった自分の部屋を
どう有効に使おうかと

一人考えていた。


その後、姉の消息が分かるまでに

約7年の歳月が流れることになる。


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自由になるため
アメリカに行くことを密かに決意していた私。

母の異様な行動に
私とは別の形でココロを失い、行方不明になった姉。

それでも、人生とは
どれだけ暗闇の中にいようとも
自分の意識さえも及ばないところで
必ず自分を導いているものだということを
私が知るのは、
この時からずっと後のことになります。


次回エピソード
9. 新たな挑戦

に続きます。

姉がいなくなったことで、更に異様さを増していく母。
残された私に課せられた新たな挑戦とは?

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これまでのお話はこちらから
https://note.com/mailittlebridge/m/m0a1e86abab06

Find me in the dark
—あの頃子供だった私たちへ—

”幸せそうな家庭” に育ちながら
母の呪縛によって感情を失った子供・Mai

自らの幸せを見つけるためアメリカに渡るも
生きる目的すら見出せずにいた頃

突如訪れたきっかけによって
自らの運命を変える旅に出発するー

ココロを忘れ、笑い方を忘れ
氷のように無表情だった私が

愛し、愛され

天職を見つけるまでのお話と

数々のWisdomを書いています。