逆襲!慶應義塾の悪だくみ ワセジョvs慶應ガール③~鈍る早稲田~
畠山沙知(慶應卒32歳) 山中香織(早稲田卒26歳)
はい? なんでそうなるの?
山中香織と畠山沙知の上司、広報宣伝部長の村田芳樹はかつてのライバル、藤崎陽一経営企画部長からの内線で混乱した。
「品のない社内学閥遊泳とはなんぞや?」
村田は藤崎に聞き直した。
畠山沙知が家でピアノを弾きながら泣いているらしい? (泣いていたのか?そうなら何とかしなくてはいけない。)
だが理由が思いあたらなった。山中ではなく畠山が泣くのか?と自問した。
「メインバンクの畠山支店長がそう言って怒っている」
藤崎経営企画部長は冷淡に電話で語った。
「はい?その人は畠山のお父さん?」
村田はなんとなくつかめてきた。
「そうだよ」と藤崎はため息をつきながら言った。
「参ったね、畠山のお父さんはメインバンクか。どこの支店?」
「鎌倉駅前支店」
「関係ないじゃん、かすりもしていない」
「相変わらず村田は鈍い。かすっているから、かするどころか直撃しているから、社長が懸念しているんだろ?多分当たる勘だが、その鎌倉駅前支店長とやらが次期執行役員ポストなんじゃないの?」
「げ!」
「げ、と言いたいのは俺だよ。畠山支店長の脳内にあるらしい怪しく下品な早稲田閥とやらの頭目にされてしまった。だから社長は俺に苦言を」
「そんな派閥はない。まずおれたちは仲が良くない。以上。そう社長にお伝えください、どうぞ」
二人はしばらく沈黙した。
「ところで」と、村田は「俺は鈍いの?」と藤崎に聞いた。
「はい」
「鈍い、とはまた凄い言葉だな。鈍い。俺は鈍いと。相変わらずと」
「はい、鈍いです。村田部長は昔から鈍いです。たとえば一例。その畠山支店長は慶應なんじゃないの?どう思いますか?」
「私が鈍かったです」
「わかるよね、慣例のポストというやつ。さらに上に行きたいなら部長になるにしても総務や経理、東大、一橋でその位置、あるいは俺のように経営企画部長、前例は大事だしそうなっていく」
村田は早く電話を切りたくなった。
「このデリケートで不気味な件に触りたくないので金崎課長に預けます。彼に連絡しておきます!」
「頼むよ村田部長。俺の邪魔をしないでくれよ」
藤崎の声に怒気が混じった。
「邪魔なんかしておりません!頑張ってください、次期常務」
「畠山君に何か変なパワハラでもしたの?」
「やってないよ。」
「金崎君は教育学部の体育専修…」と藤崎は小さく呟いた。
言わんとすることは鈍い村田にも伝わった。(金崎も早稲田だと…)
「体育会が俺は好きなの。彼はアメフト推薦。藤崎次期常務様、ここだけの話だが、体育会の倉橋真衣香を異動で取られたとき、泣きたくなった理由はそれでございます。」
「村田部長も元サッカー部体育会で社内大会でもうまかったしね。金崎君が早稲田で倉橋君は日本女子体育大か」
「だから俺はルックスも相まって藤崎部長より女子に人気だった。ところで藤崎さん、大学の話はやめよう。」
そう言って、村田は慌てて内線電話を切った。
お気に入りのバレー女子、倉橋真衣香を制作局に取られ、代わりに来たのが同じ年齢の畠山沙知だったのである。
金崎課長に伝えなければいけない。
(課の様子を見に行くか)
。。。。。。
まず村田は同じ階にある広報課を覗きに歩き出した。
口頭で話したら聞かれてしまう。金崎も畠山も山中も何事もないように見えた。だが火花が散っているらしい。しゃべりにくい、と恐る恐る思った。
先ほど言われたばかりの自分が言うのもないが、と思いつつ、金崎も多分かなり鈍そうだ。と感じた。
部長室に引き返し、村田は金崎に内線をかけた。
「金崎課長、課内はどうですか?」
「特に報告すべきマズいことはないですよ?どうしました?」
「きみは鈍い。異動した倉橋は元気にやっているだろうか?あのCAみたいな倉橋」
「倉橋さん?この前すれ違いましたが元気そうでしたよ。部長お気に入りでしたからねぇ」
朗らかに笑った後、この元アメフト部の金崎課長は朗らかにさらに続けた。
「でも、もういいじゃないですか。倉橋の仇は山中で取った!倉橋で譲ったので山中で押して取り返した!そう言ってたじゃないですか。」
大声なので金崎の声は笑い声とともに課内に響いた。
山中香織は畠山沙知の白くなった顔を見て青ざめた。
電話の向こうの村田も嫌な気になっていた。鈍すぎる。教育学部体育専修、たいせんは鈍い。わかってはいたが思っていたより鈍い。と村田は思った。
(切りたい。早く切りたい)
「そういえば部長、いつかランチでも。金曜にどうですか?」
「その日の正午に来なさい」
そして切った。
村田は周りが聞き耳を立てているのを承知で声を出した。
「早稲田閥などというものはない。なぜ私が早稲田というだけでこの金崎を持ち上げるだろうか?」
そして万感の思いを込めて首を振りながら言った。
「金崎課長は鈍い!」
あのバカ、まだいってんじゃないのか?山中は村田お気に入りだの、倉橋と山中は良いコンビになりそうだの。そう村田は想像していた。もう私は知らん。
。。。。。。。。。。。。。。。
懸念は的中し、金崎の声はなおも響いていた。
「山中さんと倉橋さんはスレ違いだから一緒になっていないんだよなぁ」
香織は席を立って後ろから口を塞ぎたくなったがそれはできない。
「そういえば」
嫌な予感が加速した。
「社内に山中派ってのがあるらしいよ?」
畠山沙知を不快にさせることを言い尽くしたのでもう止める必要はない。
「倉橋は別格の人気殿堂入りレジェンド。他は誰が見ても可愛い営業の佐藤派。」
うるさい。やはりやめてほしいが虚しくそれらは続き、室内に響いた。。
「佐藤派はアンチ山中なので山中の悪口を言っているっていうからたまらないよな。七階が反山中の巣窟らしいよ、わっはっは、」
「村田部長にゴマすろうってことで俺は山中派。わっはっは、」
「今のはジョークだよもちろん、わっはっは」
山中香織にとってシャレになっていない日となった。怖くて今の畠山沙知を見れなかった。
続く