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没プロット『ミスティックキラードール』ver.5

メインキャラ
泡(あぶく)非魔術師。魔術師専門の殺し屋。

1話ゲストキャラ
大河内仁(おおこうちじん)刑事。やかましい。
羽田高野(はねだこうや)先輩刑事。気だるげ。

魔術師 吸収魔法(植物)。尊大。

#1
『魔術』
【意志】に応じて変化を生み出す科学にして技芸。
古来より
未だ人類が証明できていない力の一つである。

警察署の喫煙所。
タバコを吸う大河内と羽田。
羽田「魔術ぅ?何言ってんだお前。」
大河内「だってーそうでもないと証明しようがないっすよー。そうじゃなけりゃUMAか宇宙人。」
大河内が煙を吐きながら口を垂れる。
羽田「じゃあ調書にそう書いとけよ。署長にしばかれたいんなら。」
大河内「ペアなんだから、羽さんも同罪っすよ。」
羽田「罪の意識あんじゃねぇか。」
大河内「だぁって〜。」
羽田「そんなあり得ないこと言ってる暇があったら、もっぺん現場見に行ったり目撃者探しに行ってこいよ。」
大河内「あり得ないなんてことはあり得ないんですよ。」
羽田「なんだそれ?」
大河内「俺が尊敬する人の言葉です。」
羽田「グリードだろ。」
大河内「知ってんじゃないっすか。」
羽田「職業的にアウトなところ尊敬してんじゃねぇよ。マスタングにしとけ。」
大河内「だったらもう少しギラついてくださいよ。」
羽田「うるせぇ」
羽田がタバコを灰皿に捨てる。
大河内もそれに倣う。

大河内モノローグ『刑事をしていると、時折、正体不明・実証不能な事件にかち合うことがある。』『今回の事件はまさにそれだ。』

回想。
第一の事件は、一月前。
都内の歓楽街の路地裏。小雨の降る早朝。
発見者は若いホスト。異臭とカラスの群れにより異変を察知。
路地を見に行ったところ、そこには若い女性の死体があった。
死因は、衰弱死。
監禁、虐待等性的暴行も疑われたが、検死の結果それは否定された。
何故なら、女性の身体に外傷は一切なかった上に、持病の類も無く。
筋肉の収縮具合、臓器の損傷の様子から、死体は〈急速に体の水分・養分を全て抜かれている〉
ということが判明した。道具もなく五分かそこらで人体のほとんどの構成要素を干上がらせるなんて芸当、現代でできるはずも無くはずもなく、検視医たちは頭を抱えていた。
監察医「ドラキュラか馬鹿でかい電子レンジか赤銅ヨロイ。」
大河内「誰が覚えてんすかソレ…」

それから現在まで、発見されているだけでも合計8体の動揺の死体が発見された。

警察車両が並ぶ駐車場。
車のキーを回しながら、大河内が車まで歩く。
大河内(全く羽田さんも人使いが荒い…)

数分前、タバコを吸い終わったところで、
羽田に現場確認を命じられた。

そこで、パトカーから降りた婦警とすれ違う。
婦警「お疲れ様です。」
大河内「お疲れー。」
婦警「また例の現場ですか?」
大河内「そー。もう何回行ったか分かんないよ。」
婦警「大変ですね。ああ、そういえば、先輩婦警が話してたんですけど、最初の事件の現場で出たらしいですよ。“少年の霊”。」
婦警が内緒話をするような仕草で大河内に寄ってきた。
大河内「霊??何それ。」
大河内も興味津々という様子で婦警の動きに乗る。
婦警「ご存じないですか?婦警の間では結構有名な噂なんですけど。各地で起こる未解決事件でよく少年の霊が目撃されてるらしいですよ。見た目的には、小学生…高学年くらいで、事件現場をうろうろしてて、注意しようとしたらいつの間にか消えてるって話です。」
大河内「へー、今回の事件に少年の被害者はいなかったはずだけど。」
婦警「女性ばっかりですもんね。今回の被害者。でも、関係ないらしいですよ。とにかく未解決事件に出現するらしいです。なんでも、データベースを漁ってる時にある婦警が気がついたらしいんですけど。」
大河内「調書にも書かれてるってこと?」
婦警「はい。らしいですよ。私も見たことはないんですけど。」
大河内「幽霊ねー。もういっそそいつが犯人だったりしねぇかな?」
婦警「その発言は刑事的にそこそこアウトです。」

羽田「おい大河内ィ!!」
羽田が慌てた様子で駆けてきた。
大河内「羽田さん。」
羽田「よかったまだ出てなかったな。行き先変更だ。急ぐぞ。」
羽田の様子に大河内が感づく。
大河内「まさか…」
羽田「ああ、9人目の仏だ。」
慌てて車に乗り込みサイレンを鳴らす。

大きな海浜公園の海沿い。
ブルーシートと黄色いテープが貼られた現場。
大河内「うっぷ…!」
吐きそうになる大河内。
羽田がそちらを見る。
羽田「お前、いい加減慣れろよ…同じような死体9体目だぞ。」
大河内「…すみません」
口元を抑え、顔を顰める大河内。
羽田「…状況は?」
羽田が顔を上げて検視官に問う。
検視官「現状の死体の状況だけ見ると前の事件と同じですね。おそらく急速に乾涸びています。例によって痕跡もありませんね。周囲の防犯カメラを漁っていますがどうでしょうね。」
羽田「今までも、カメラからは何も見つかってないからな。ぶっちゃけ相変わらず何もわからないって感じか。」
監察医「ぶっちゃけそんな感じです。」
はぁ〜とため息をつく羽田。
大河内「…ちょっとすみません!!」
大河内が駆け出す。
羽田「奥行けよ〜。マスコミと野次馬には見られんな〜。」
方向転換して奥に向かう大河内。
羽田、その様子を見て再びため息をつく。

オロロロロロロ…と戻す大河内。
口元を拭いながら振り返る。
大河内「ったく、情けねぇ。」
事件現場に戻ろうとする大河内の目にふと気になるものが見えた。
ブルーシートの隙間から、白いパーカーに金髪の少年が滑るように出てきた。
背丈のほどは150センチあるかないか、小学生高学年から中学生あたりか。

婦警『出たらしいですよ“少年の霊”』

大河内「まさか…!」
大河内が後退ると少年が大河内に気がつく。
少年の口元が笑ったように見えた。
そして少年がゆっくりと人集りの中に消えていく。
周囲の人間からはまるで見えていないような様子だ。

大河内が慌てて跡を追う。
人集りをぶつかりながら抜けるが、そこに少年の姿はなかった。

大河内「本当に幽霊…?」
ハッと自分の言葉を嘲る大河内。
大河内「そうじゃなけりゃ魔法かな。瞬間移動的な…」
泡「おしい!魔法じゃなくて“魔術”な。」
大河内の背後から突然声が聞こえる。
振り向くとそこには先ほどの少年(泡)が立っていた。

唖然とする大河内に対して軽薄そうな笑顔を浮かべた泡。
大河内「ひっっ…えぇ…!」
悲鳴を上げながらよろよろと力なく崩れ落ちる。
泡「はっはは、刑事サン、いいリアクションするね。」
ケラケラと泡が笑う。泡が大河内に手を差し伸べる。
泡「ダイジョーブ、幽霊じゃないよ。足あるし。触れるぜ。」
大河内がヨロヨロと泡の手を取る。

その手を握ると泡がしっかりと握り返して大河内を引っ張る。
大河内、その反応で立ち上がる。
泡「今からちょっと話せるかな?」
大河内、怪訝そうな表情。

警察車輌の裏とか、人の目を避けた場所。
泡「刑事サン、よく俺に気づいたね。勘がいいね。それか目かな。」
大河内「あの…君は一体…」
状況が飲み込めていない様子の大河内。
泡「ああ、悪りぃ悪りぃ。自己紹介忘れてた。」
泡「名前は泡。魔術組合“暁の会”…つってもわかんねぇか。えーと、なんだ…魔術を使って犯罪を犯す輩を裁く組織の人間だよ。」
大河内「魔術…」
泡「信じられない?」
大河内「……。」
泡「でもまぁ、起こっちまってる。周囲の人間に気づかれず9人もの人間をミイラ化させて、それも痕跡もなく捨てるなんて、普通の人間には不可能だろ?」
泡「魔術は確かに存在するよ。」
泡「そんでこの事件の犯人は魔術師だ。」
大河内「だよね!!!!!」
泡「…お?」
大河内「いやー俺もそうなんじゃないかと思ってたんだよ!!冴え渡る刑事のカンってやつだね!!」
泡、呆れた表情で大河内を見る。
泡「刑事サン、さては天然だな?」
大河内が立ち上がり、泡に詰め寄る。
大河内「つまり!君ならこの事件の犯人を捕まえることが出来るってこと!!?」
泡がニヤリと笑う。
泡「あたぼーよ。」
大河内「だったら、協力させてくれないか!?俺は…」
言いかけたところで、泡が手のひらを前に出し、大河内を制する。
泡「だったら取引しようぜ。」
大河内が息を呑む。

夜の警察署内。
こそこそと自身のデスクを漁る大河内。
それに気がついた羽田が声をかける。
羽田「おう、なーにやってんだこんな深夜に。」
大河内「ふおおお!!!!!」
驚いて声を上げる大河内。
羽田「うお、びっくりした。」
大河内「なんだ羽田さんか。脅かさないでくださいよ。」
羽田「こっちのセリフだよ。なんだ?悪戯でもしてたんか?」
羽田、大河内が抱えている大量の資料の束に目をやる。
羽田「なんだ、事件の資料か?どこ持ってくんだよ。署外に持ち出し厳禁だぞ。」
大河内、あからさまに目が泳いでいる。
大河内「あー…っとちょっとここだと集中できなくて。空いてる取調室とか借りようかなって!」
羽田「…おおそうかよ。あんま根詰めんなよ。」
大河内「はい!羽田さんもたまには休んでくださいね!」
明らかに挙動不審の大河内。
羽田「…程々にな。」
羽田がひらひらと手をふる。
大河内「はーい!」
大河内がその場を去る。
羽田「…なんだアイツ?」
羽田が手元にある書類を見る。
羽田「あ。」
思い出したように声を出す羽田。

明かりが消えた取調室。
大河内、周囲をこそこそ見回しながら、中に入り明かりをつける。
中には泡が座っている。
泡「遅かったね刑事サン。」
大河内「ごめんごめん。」
言いながらデスクに持っていた資料の束を置く。
大河内「これで全部だよ。」
泡「サンキュー。」
泡が資料を手に取りパラパラと読み始める。

回想。事件現場。
大河内「事件の資料を見せてほしい?」
泡「うん、未公開のものとか検死資料まで全部まるっと。」
大河内「了解!」
泡「ノリがいいのは助かるんだけど、刑事サン大丈夫?捜査機密を一般人に見せるとか正気じゃないぜ?懲戒免職もんじゃないの?」
大河内「そんなこと言ってて犯人捕まえられんの?」
泡「いやまぁそうなんだけど…まぁいいや。見返りは犯人の捕縛。ただし、犯人の裁量はこちらに任せてもらう。非魔術師の法じゃあ、魔術師は裁けないからな。」
大河内「それって事件は…?」
泡「ああ、警察の資料的には未解決になるな。ただし、犯行自体は止まる。さぁどうする。」
大河内、ピンとくる。
大河内(まさか昼間見た未解決の事件も…!?)
大河内「乗った!一緒にこの事件を止めよう!」
手のひらを出す大河内。
泡「いいねぇ。好きだぜ。ノリのいい刑事サン。」
泡がニヤリと笑ってハイタッチをする。

回想明け。
大河内「いいねぇ…!まるで劇場版のコナンだ…!!」
泡「それ刑事サンと俺、何ポジよ。」
資料から目を逸らさずに、泡が問う。
大河内「え、降谷?君、コナン君。」
泡「ファンにぶっ飛ばされるぞ…いいとこ山村警部だろ。」
大河内がショックを受ける。
泡「あと俺がコナン君ってのも納得いかん。俺、14歳。年齢的には新一の方が近ぇ。」
大河内「そうなの?10歳くらいかと思ってた。」
泡「ムカつくなアンタ。」

大河内「泡君、もしかしてこういう事件何度か解決してたりする…?」
泡「おー。」
大河内「その時もこんなふうに警察と組んだりしてんの?」
泡「いや?普段は俺の雇い主がサクッと犯人見つけるからな。警察の手は借りねぇよ。今ちょっと雇い主が別件で動いててな。」
大河内「……。」
泡が大河内を見る。
泡「…何で嬉しそうなの?」
ニヤニヤした大河内。
大河内「いや?何でも??そうかー警察では初めての相棒なのかー。」

大河内「そういや雇い主って…?」
泡「ああ、魔術師だよ。最初に言ったろ?」
大河内「なんだっけ…」
泡「魔術連合“暁の会”。非魔術師で言うところの国連みてぇなもんだよ。」
大河内「聞いたこともない…」
泡「だろうな。魔術師と非魔術師の世界は基本的に隔離されてる。」
泡「ついでに魔術の世界では非魔術師にその存在を知られる事そのものが禁じられてるからな。」
大河内「そうなの?なんで?」
泡「なんか大昔にいざこざがあったらしいぜ。」
大河内「…フワッとしてるね。」
泡「まぁあんまり興味ねぇしな。」
泡「……!」
泡が何か言いかけて扉を見る。

ガチャっと勢いよく扉が開いた。
羽田「大河内ー?おお、いたいた。」
大河内がやばい!と言う顔をしている。
大河内「いやすみません!!これはコナン君的な!!!」
羽田「…何言ってんだお前。」
羽田が疑問を浮かべる。
大河内が泡の方を見る。先程まで泡が座っていた席には誰もいない。
大河内「え??あれ??なんで??」
キョロキョロと辺りを見回す大河内。
扉側の天井に今日に張り付いている泡を見つける。
大河内(いつの間に…!)
羽田「ほれ。これ。さっき渡しそびれた。」
羽田がファイルを机に置く。
羽田「9人目の検死結果だと。まぁ今まで通り大した情報はなかったがな。」
大河内「ああ…ありがとうございます…」
羽田「じゃあ俺一旦仮眠取るわ。」
大河内「了解です。」
相変わらず視線を泳がせながら大河内が堪える。
羽田「お前も、休んどけよ。さっきからお前様子おかしいぞ。」
大河内が愛想笑いで誤魔化す。
怪訝そうな顔をしながら、部屋を出ていく羽田。
去っていく足音を聞いて、一息つく大河内。
泡が天井から降りてくる。
大河内・泡「「…あぶなー…」」
大河内「すごいね!!もしかして今のも魔術!?」
泡「あー?今のは…」

泡が言いかけた所で再び扉がガチャっと開く。
羽田「ホレこれ、差し入れ…は?」
泡、大河内「「あ。」」
羽田が何か言おうとしたタイミングで、泡がポケットからピンピン玉のような物を取り出し羽田に向かってトスする。
ポフンと愉快な音を立てて羽田の顔の前で、玉が爆発する。顔中の穴という穴から煙を吐きながら羽田が倒れる。
ふいーと泡が汗を拭く動作をする。
大河内「何やってんの君ーーーー!!!!!」
泡「大丈夫。寝てるだけだよ。」
大河内が羽田を抱き起こす。羽田は寝息を立てている。
大河内「へ?」
泡「雇い主のデスクからパクっ…借りてきた魔具だ。ちょっと起きた時にはちょっと記憶が飛ぶだけだよ。」
泡「言い訳すんのも面倒だしこれでいいだろ。椅子に座らせとこうぜ。」
大河内、羽田の身体を支えて椅子に座らせる。
泡「さて、行こうぜ。」
泡が背中を伸ばし、首を鳴らす。
大河内「あれ?資料はもういいの。」
泡「おお、もう大丈夫。行こうぜ。」
大河内が疑問符を浮かべながら泡の後を追う。
残された羽田がすかーと間抜けないびきをかいている。


泡「楽しい楽しい魔術師狩りだ。」


路地裏にを歩く男。前方を歩く女の跡を追っている。
コツコツと足音が響く。
女が足音に気がつき、歩調を速める。
男も合わせて歩調を上げる。
しばらく追いかけあった後、女が角を曲がる。
男が後を追って角を曲がるとそこには車輌が一台。
その前に立つ泡と大河内。
泡「ビンゴだぜ。変態魔術師。」

魔術師「…何者だ?」
泡が名乗ろうとしたところで大河内が一歩前に出る。
大河内「警視庁刑事部所属!大河内だ!」
魔術師、無反応。
泡「刑事サン空気読んで。」
咳払いをする泡。
泡「魔術連合“暁の会” 秘匿部隊(オブスキュラス)。追手だよ。」

回想。警察車輌内。
泡「刑事サン。一応言っとくけど。敵の魔術師とかち合っても手ぇ出さないでね。俺が守るけど、やっぱり危ねぇから。」
ごくりと大河内が息を呑む。
大河内「かっこいい…!」
泡「…最低限の緊張感は持っといてね。」
泡「あ!この辺で一回停めて!!」

回想明け。
大河内(そうは言っても援護くらいは…ってあれ?)
後ろでで腰の拳銃に触れようとする大河内。
しかしその手は空を撫でる。そこに拳銃はなかった。
大河内(あれ??なんで…?)

慌てながら、泡の方を見ると泡が大河内の拳銃を魔術師に向かって構えている。
大河内「それ俺の…」
言い終わる前にガンガンガンガンと轟音が響く。
驚いた大河内は硬直する。
全弾撃ち終わった後、泡は大河内の方に向き直る。
泡「サンキュー。これ返すね。」
と言いながら、拳銃をトスした。
我に帰りながら、アワアワと慌てながら拳銃をキャッチした大河内が
大河内「何やってんの君!!?ていうかいつの間に!!?」
泡「さっきスっちゃった。」
てへっと笑う泡。

大河内「笑ってる場合じゃなくて…!!犯人殺しちゃったら罪に問えないんじゃ…!!」
大河内が魔術師の方を見る。そこで息を呑む。
魔術師の目の前から緑色の植物の蔦が無数に伸びており、銃弾を防いでいた。
大河内「あれは…?」
泡がふーと息をはく。
泡「まぁあんなんでやれるとは思ってねぇけどよ。」
大河内「じゃあなんで撃ったの!!?」

魔術師「その通りだ!!!」
2人のコントに魔術師が割って入る。

魔術師「貴様も魔術師の端くれだろう!!ならば、血の込もらぬ人間の道具など使うな!!」
魔術師「魔術師ならば、魔術で力を示せ。無礼だぞ!!」
ポカンとした大河内。

間を置いて泡が「ハッ」と鼻で笑う。
魔術師「?」

泡「悪りぃな変態。俺は魔術は使えねぇよ。」
魔術師「何?」
泡「別に俺が魔術師なんて言ってねぇだろ?俺は魔術師に雇われてるだけのただの一般人だよ。ていうか使えたとしても使わねぇよ。嫌いなんだよな魔術。」
大河内「ええ!!?」
泡「あれ?刑事サンには言ってなかったけ?」
大河内「聞いてないよ!!」
大河内「あれ、そういえば、さっき羽田さんに使ってなかった…?」
泡「戦闘においては!!めんどくさいな!揚げ足とんなよ刑事サン!!」
大河内(…ていうかだったら…どうやって拳銃も効かない魔術師なんかに勝つんだよ…!)

魔術師が低い笑い声を上げる。
魔術師「連合も落ちぶれたものだな!無能な非魔術師を雇うとは!人手不足か?」
魔術師「そこを退いてくれるか。私は忙しいのだ。男と小僧の命に興味はない。今なら見逃してやろう。」

泡「アンタさ。魔術師でもない俺がどうやって次の犯行場所を突き止めたのかとかは疑問に思わないワケ?」

泡「プロファイリングって知ってるかい。」
魔術師「?」
泡「統計学と行動科学の応用でな犯罪者の心理を分析、解析して犯人を追う術なんだが。」
泡「アンタがここに現れると予測した方法だよ。」
魔術師「つまりアンタは非魔術師の分析術によって追い詰められたことになる。」
魔術師の眉間に皺が寄る。
魔術師「魔術師(アンタら)は非魔術師(俺たち)をなめすぎなんだよ。」
魔術師が不機嫌そうに歯を食いしばる。

魔術師の周囲の蔦が戦闘大勢のような型を取る。
泡「それに触れると、体が干からびるってか?」
魔術師「ご名答。だがそれだけでは無い。」
大河内、過去の死体を思い出して身震いをする。

魔術師「…【吸収】私の魔術のベースに過ぎない。先祖が脈々と受け継いだ魔術に生命を生み出す若い女の魂を食わせることで、私の魔術は進化を遂げた。」
魔術師の蔦から女性の頭のようなものが、果実のように現れる。
怯えた目でそれを見る大河内。気持ち悪っとつぶやく泡。
魔術師「【結実】それが私の魔術だよ。」
魔術師「知らぬようだから教えてやろう。魔術というのは血によって継承され、魔術師が生涯をかけて育て高める知恵の結晶だ。ただの無能者ごときが足を踏み入れていい領域じゃないのだよ!!」

蔦が泡に襲い掛かる。
泡「数発じゃダメだったが…」
泡「コレならどうだ。」
泡の手にいつの間にかサブマシンガンが握られている。
魔術師/大河内「!!?」
蔦に向かって発砲する泡。
蔦は僅かに怯み、勢いを落としながらも泡に突進する。
身軽なステップで蔦を躱す泡。
泡「うーん、あんまり効き良くねぇな。効果はいまひとつってところか。」
言いながらサブマシンガンをポイッと放る。

魔術師「…どこからそんなものを出した。」
泡「別にずっと持ってたぜ?」
ハッとする大河内。
大河内「…銃刀法違反!!」
泡「刑事サン、マジで黙ってて。」

魔術師「貴様、魔術は使えないというのは本当か?今のは【召喚】あるいは【精製】の類の魔術ではないのか?」

泡「はっはっは」
泡がパーカーの前を開け服を数度パタパタと振る。
すると、泡の服から大量の武器兵器がガシャガシャと音を出して落ちる。中にはどうやっても隠し切れないであろうサイズのものまである。(化物語1話の戦場ヶ原的な。)
泡「コレはただの収納術だよ。用心のために色々持ってんだ。」
魔術師(…そんなわけがあるか!!明らかにあの少年の体のサイズを超えている!!こんなのはまるで…!)
泡「『十分に発達した技術は、魔法と区別がつかない』ってやつだな。この場合は魔術だが。」
泡「まぁ個人的には…」
泡が腰から大ぶりのナイフを取り出す。
泡「コレが1番得意なんだけどな。」

ふっと泡の姿が消える。
魔術師が気づいた時には泡の姿は魔術師の足元にあり、ナイフでその腕を切り落とす。
泡「…縮地ってんだが知らねぇだろ。日本の古武術が源流なんだがだいぶ実践用にアレンジしてる。」
魔術師、くっ…と声を上げながら蔦を振るうが、泡はそれらを難なく回避する。
車の上に着地した泡が息も切らさず魔術師を見る。
泡「血によって継承される知恵の結晶か。」
泡「アンタ、人間がこの歴史で幾つの武術を生み出してきたか知ってるかい。」
泡「この国だけでも数千、世界中なら数えきれない。バリエーションも豊富だぜ?格闘術に剣術柔術、槍術、砲術、投擲術に暗殺術…忍術なんてのもそうだな。」
泡「武術だけじゃねぇ。さっきのプロファイリングとか収納術だってそうだよ。行動学、統計学、化学に物理学、兵器工学。あとは色んな国の色んな戦術論。時間だけはあったからな。こと戦闘に役立ちそうな技術は片っ端から磨いたよ。」

泡「ーー非魔術師(ひと)の紡いできた技術と叡智、その歴史がお前の敵だと思え。」
悪魔のような笑いを浮かべる泡。

魔術師「…そんなチンケなものを偉大な魔術と同列に語るな!!!!!」
魔術師が激昂し蔦が泡に襲いかかる。果実も泡に喰らいつく。

泡「…そうかよ。」
泡が何もないところでナイフを振る。

魔術師がその動作で見えにくい糸を切ったのだと気がつく頃には、魔術師の頭上から液体の入った袋が数個勢いよく落下し弾け、魔術師の体を濡らした。
魔術師「これは…!」

泡「俺ブレンドの可燃液だよ。」
泡の言葉と共に魔術師が泡の方を向くと、泡が巨大な火炎放射器を構えていた。
泡「指パッチンとはいかねぇが。」
魔術師に炎が浴びせられる。叫び声と共に魔術師の身体が炎に包まれ、のたうち回る。
蔦となった身体を解除しながら、火を消そうと地面を転げる魔術師に今度は泡が消火器のような白い粉を噴射させる。


力なく仰向けに倒れる魔術師の視界にナイフを振り上げながら飛び上がる泡の姿が映る。
恐怖で目を見開く魔術師の首のすぐ横に泡がナイフを突き立てた。


泡「びっくりしたろ。魔術ってのは性質とか属性が重要なんだろ?火は水で消える。水は熱で蒸発する…こういう法則を守ってこそ魔術は成立するってのがウチの上司が言ってたぜ。つまり、アンタの蔦も炎で燃える。」
魔術師「…だとしてもおかしいだろ…!お前はさっきまで私の魔術の正体を知らなかったはずだ…!」
泡「ああ、そんなことか。だからプロファイリングってやつだよ。犯行からアンタの魔術を数パターン予想してそれに効きそうな罠を80くらい仕掛けてたってだけさ。後は持ってる武器の半分くらいを捨ててもう武器がないと思わせたんだよね。無中生有的な。」
魔術師が悔しそうにクッと声を出す。

泡「さて、最後に質問だ。【分解】【結合】、2種類の魔術を使って一般人を殺して回っている魔術師を知っているか?」
魔術師「…知っている。」
泡「はい嘘。発言から嘘を見抜くとか心理学の初歩だぜ。」
ギリっと魔術師が歯を食いしばる。

大河内が息を呑みながら、その光景を見ている。

大河内「すげぇよ!!泡くん!!めちゃくちゃ強いじゃん!!」
泡「ありがとー刑事サン。」
大河内「これで事件解決か〜。あ!そいつは魔術師…の司法機関に連れてくんだよね。手錠とか貸そうか?」
泡「えい。」
泡がナイフを抜き振るうと魔術師の首から勢いよく血が溢れた。
魔術師の意識が消えていく。
大河内「え…?」
泡がナイフについた血を払いながら立ち上がる。
大河内「ちょっと!!何やってんの!!?え、これ死んで…?」
地面に血溜まりができていく。
泡「うん。殺したよ。…ああそっか、言ってなかったね。魔術師の世界では、“非魔術師への危害”と“魔術の隠匿”は最大の罪でね。即死刑が原則なんだよね。」

大河内が唇を噛みながら、苦々しい顔をする。
大河内が何かを決意したような顔をして、手錠を前に出す。
大河内「泡くん。君は俺たちにはどうしようもない事件を解決してくれた恩人だよ。でも殺人(これ)はだめだ。すまない。俺は君を捕まえなくちゃならない。」
泡が笑う。
泡「刑事サン。アンタ。」
泡「いい警察だね。」
大河内「泡くん…」
泡「願わくばこれから先、アンタみたいな人がこんなイカれた世界に足を踏み入れないことを祈るよ。」
泡が目にもとまらぬ速度で、ピンポン玉のようなものを大河内に投げた。
大河内「しまっ…!」
大河内がそれが何か気がついた時にはポフンという間の抜けた音と共に視界が煙に包まれ、意識が混濁する。
力なく地面に倒れた大河内。最後に見た景色は泡がスマートフォンで電話をしていた。
泡「あーロゼ?至急、今から位置情報送るところに隠滅隊(クリーナー)を…」
大河内の意識が途切れる。

数ヶ月後。
大河内と羽田が追っていた連続ミイラ化事件は9件目を境にパタリと止まった。
今に至るまで、事件は起きていない。
ネットでは当時様々な噂が流れたが、今ではほとんど見かけなくなった。

警察車輌で走る羽田と大河内。
羽田「特捜も今日で解散だな。」
大河内「っすねー」
力なく大河内が返事をする。
大河内「犯人どこ行っちゃったんすかねぇ。」
羽田「さぁな。ネットでは死んだって説が出てるらしいぜ。」
大河内「へぇー。」
羽田「……」
大河内「……」
大河内「気持ちの悪りぃもんっすね。担当事件がお宮になるってのは。」
羽田「だなー。」

大河内が歩道に見覚えがあるような少年の姿(泡)を見つける。
自然と目で追う大河内。
羽田「おいバカ。前見て運転しろ。」
大河内「すみません!」
羽田「なんだよ。知り合いでもいたか?」
大河内、少し考えるが思い出せない。
大河内「いやー…なんかそんな気が。誰だっけ?」

車が通り過ぎた後で、泡が振り返る。
ひひっと笑い振り向いて再び歩き出す。

『魔術』
『それは、現代まで脈々と受け継がれる異端の力。』
『火を生み、風を起こし、あらゆる奇跡を呼び起こす。』
『一般社会からは隔離され、認知すらされていないものの』
『魔術師たちは独自の文明・社会を築き』
『或いは非魔術師の世界に潜み』
『今も実在している。』

『そして、その境界を守る者たち存在する。』
『これは絶大な力を持つ魔術師に、魔術を用いずに戦うことを選んだ少年の物語。』

『ミスティック・キラー・ドール』

(第一話 了)
















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