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書道のすゝめ 前編

はじめに

「書道の展覧会って行っても読めないし、作品の何を見るのか分からない…」
そんな声をよく耳にします。

その気持ちとてもよくわかります。
書道も芸術とはいえ、絵や音楽に比べると直感的にわかりづらい上に取っ付きにくい。それにぐにゃぐにゃした一生書きそうもない漢字ばっかりで全然読めないし、偏屈そうなおじいちゃんが出てきてなんか小難しいこと言ってきそう…。
(なお、これは全て私が初心者だった頃に抱いていたイメージです。我ながら偏見がひどい。)

おそらく多くの方が似たようなイメージを持っていらっしゃるのではないかな?と思っています。

書道の展覧会は全国各地で行われており、規模やテーマもまちまちですが、それらの根底に共通しているのは「作品を通して書道を広く知っていただき親しんでもらいたい」という思いです。

それなのに取っ付きにくさや読みにくさのせいで作品を展示しても魅力が3分の1も伝わらない!!!
書道人口が高齢化したり減少傾向にある今、長年書道を続けてきた身として「これは何とかせなあかん」と常々課題に感じているところであります。

このままじゃいけない。とはいえなかなか難しい…。 

そこで、このnoteでは前編と後編に分けて「そもそも書道って何なん?」という点と、作品を見る上での「目の付け所」を掻いつまんでお伝えできればと思っています。
書道が何だか縁遠いものに感じている方もこれを読めばきっと明日から作品の見え方が変わるはず。
皆さんがきっとうっすら抱えているであろう「何をどう見たらいいの??」という疑問解決のお手伝いになれば幸いです。


1.書道って何なん?

(1)「綺麗さ」の向こう側へ

書道と習字(書写)は何が違うか考えたことありますか?
「一緒じゃないの?」と思われた方は半分正解で半分違っています。
広い意味では書道も習字も同じなのですが、厳密にいうと「習字(書写)」は正確さのウェイトが大きいのに対し、「書道」は芸術性や独創性のウェイトが大きめです。(もちろん基礎は必要です)
学校教育の現場でも小中では「書写」、高校は「書道」と名前を変えて国語の一部から芸術科目にクラスチェンジします。
書道とは正確かつ綺麗に整えて書くことを超え、古代中国から脈々と受け継がれてきたセオリーやテクニックを駆使しながら空間や線の表現を追及していくアートなのです。

(2)流派?会派??

書道には「会派」というものが存在していて、茶道や華道のような○○流という流派を前面に出すことはあまりありません。
流派が全くないわけではないのですが、派生や枝分かれが非常に多いために流派よりも「会派」で括られるのが一般的です。
この会派というのは、書風と呼ばれる書き方の傾向や作品づくりに対する考え方(ざっくり言うと音楽性みたいなもの)が似通った人たちが集まって作られた団体で、○級や○段といったランクはその会派内でのランクとなり全国共通の統一された資格ではありません。
会派とはいっても茶道や華道のような決まりきった型があるわけではなく、同じ会派内でも師匠(先生)によって書風に違いがあり、弟子は大抵その書風の影響を受けています。(私もそのひとりです)

会派は無数にあり、芸術性がとても強い前衛アートのような書風が得意な会派、独自性より基本を重んじるタイプの会派、かな文字など特定の作品ジャンルだけを扱う会派…と色々なタイプが混在しています。
ちなみに私が所属する会派は比較的中庸なバランスのとれたタイプで、ジャンルも漢字から篆刻(てんこく)まで満遍なくカバーしています。

2.作品を見よう!

(1)読めなくても大丈夫

「展覧会行ってみたいけど読めないしな…」とお思いの方も多いことでしょう。
大前提として、書いてある文字や内容が読めなくても全く問題ありません。
読めた方がよりたくさんの情報を受け取れるのは事実ですが、読めないから全く理解できないというわけではないのでどうかご安心を。かく言う私もスラスラ読めるわけではないし、辞典がないとなかなか全ては読めません。

展覧会では作品に書いてある内容を活字で記載した小さな札(釈文)が作品の隣につけられていることが多いです。これを見れば何の字が書いてあるかがおおよそわかります。

右にある札が釈文

作品内容が漢詩の場合、訳した文ではなく文字をそのまま書くだけというケースもあるので少し読みにくいのですが、漢字が持っている意味を想像すると詩の内容もイメージしやすいのではないかと思います。まずは肩肘張らずに「なんかこの字かっこいいかも〜」くらいの感覚でゆるっとご覧くださいませ。

(2)展覧会は怖くない

「展覧会、行ってみようかな…でもいじめられないかな…」と心配している皆様、大丈夫です。
展覧会には「一見さんお断り」とか「筆も持ったことのない君に何がわかるというのかね」とか怖いことを言う人はいないので安心してください。どなた様もウェルカムです。
会場内にいる関係者は物静かそうなご年配の方が多いですが、内心ではハグしたいくらいの勢いで来ていただけたことを喜んでいますので、どうぞお気軽に足を運んでご覧いただければ幸いです。

(3)展覧会いろいろ

書道の展覧会には色々なタイプものがあります。
日展(正式名は日本美術展覧会)のような権威ある大規模な公募展、業界内で名の通った毎日書道展や読売書法展、自治体が主催する公募展、団体・会派内のみで行う作品展、特定の作家の個展…など規模もタイプも様々です。
展覧会の規模やタイプはまちまちですが、大きく次の2つのタイプに分けることができます。

① 展示だけが目的のタイプ(作品展)
審査による優劣をつけず、純粋に作品の展示だけを目的にするタイプの展覧会です。日頃の稽古の成果や会派のカラーを打ち出す発表会的な側面があります。
書道教室や会派が単独で行う展覧会はこちらのタイプが多めで、出品できるのはその教室や会派に所属する人だけに限られています。
(もちろん見るだけならどなた様でもOKです)

② 審査による優劣がつくタイプ(公募展)
一般に「公募展」と呼ばれるタイプがこちら。
展覧会ごとに定められた一定の条件を満たしていれば、所属に関わらず誰でも作品を応募できる展覧会です。事前に応募作品の審査が行われ、結果に応じた賞が与えられます。
公募展は応募したからといって必ずしも作品が展示されるわけではなく、入選しないことには展示すらしてもらえません…。
つまり、会場にあるのは一定の基準をクリアできた作品だけということになります。
公募展は「日展」のような全国規模で権威もあるものから、市展・県展(○○芸術祭のような名前の場合あり)といった自治体や団体が主催するものまで様々です。
余談ですが、日展は書道人の最終目標ともいうべきとてもハードルの高い公募展です(涙)

(4)身の回りに潜む書

「いやー、でも展覧会はちょっとなぁ」という方は、ぜひご自身の周りを見渡してみてください。
公共施設の片隅やお店の中ににひっそりと額に入った作品が飾られていたり、お店の看板や日本酒のラベル、商品のパッケージなど身近なところにも「書」は潜んでいます。
見慣れてくると、その「書」の雰囲気から商品のイメージや味、お店のコンセプトなども想像できるようになって楽しみが広がること請け合いです。

3.スタイルいろいろ

作品はその書体や形態によってジャンル分けがされています。
特定のジャンルだけに絞った展覧会もありますが、広く作品を募集するタイプの展覧会ではおおむね次の4つにジャンル分けされています。
それぞれどんな内容か見てみましょう。

(1)漢字

【作品形態】
掛け軸のような縦長で大人の背丈くらいある大きなサイズのものが多い。題材は漢詩や古典由来の熟語が大多数。
古典の内容や書風をコピーして書く臨書と作者自身の解釈や書風で書く創作の2つの形式がある。

【特徴・見どころ】
書体のバリエーションが最も多く、書風のバラエティも豊か。
楷書・行書・草書・隷書・篆書の5つの書体がある。
用具の組み合わせや書き方の違いによって幅広い表現ができる
(詳しくは後編で)

(2)かな

【作品形態】
短冊サイズから掛け軸サイズまで色々。
題材は和歌や短歌・俳句が中心。かなにも臨書と創作がある。

【特徴・見どころ】
平安時代に日本で生まれて発展してきた日本独自のジャンルで、細く流麗な線が特徴。
無地の紙だけでなく、料紙という金箔を散らしたり色や模様をつけた紙や扇面という扇形の紙に書くこともある。
変体仮名という元の漢字を大きく崩して略した表音文字が入ったり、何文字かを続けて書く連綿散らし書きというあえて揃えない書き方をする。
線の流れの美しさやリズムだけでなく、紙そのものの美しさも楽しめる。

(3)調和体(近代詩文書)

【作品形態】
掛け軸サイズや掛け軸を横にしたような横長の作品など様々。
題材は何でもありで、中には偉人の言葉や楽曲の歌詞を選ぶ人もいる。

【特徴・見どころ】
漢字仮名混じりの作品で、イメージとしては相田みつをさんの作品ような雰囲気のもの。
「誰にでも読みやすい書を」ということで作られたジャンルなのでとても読みやすい。書道界期待の星。
直線メインで画数が多い漢字と、曲線メインで画数が少ないシンプルな平仮名という構造が反対のもの同士をいかに調和させて一つの作品にするかが調和体のポイント。
書道の中では歴史の浅いジャンルなので書き手の自由度が高め。

(4)篆刻(てんこく)・刻字

【作品形態】
石材を彫って作った印を紙に押したものや木の板に文字を彫って色をつけた作品が展示される。
彫刻作品のように見えるので、一般的な書道の作品というイメージからは遠く感じられる場合がある。
題材は古典由来の熟語などが多く、文字数はあまり多くない。

【特徴・見どころ】
筆の代わりに刃物で石や木に文字を書く(刻す)という考え方をするので、彫刻作品のようでも書道の一分野に含まれている。
漢字の起源になった象形文字と現在の漢字の中間にある篆書体という紀元前生まれの書体や、より一層古い金文(きんぶん)という書体が使われることもある。
彫られた文字の鮮明さや彫り跡の美しさ、わざと縁などを欠けさせて古いもののように演出する「古色」というエイジングのような技法の使い方が見どころ。

前編はここまで。
「書道とか展覧会ってこんなのなんだな〜。へぇー」と何となくお分かりいただけたでしょうか。
(伝わってたらいいな)
後編では私の専門分野である漢字に絞ってもう少し詳しくテクニック面や見どころについて画像も交えつつご説明できればと思います。

それでは、ひとまずここまでお付き合いくださりありがとうございました!

後編はこちらからどうぞ
















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