抗わず、味方につけて
トコトコと、茶トラの猫ちゃんがこちらの方に向かって歩いてくる。
思わずしゃがんで手を伸ばしてみると、全く警戒していない様子で体をすり寄せてきた。
目の前にとどまってくれていたのは10秒くらいの間だっただろうか。
そのまま、またトコトコと歩いていってしまった。
何の頓着もなく。
こちらの方を振り返ることなく立ち去っていく後ろ姿を、ついつい目で追いかけながら、「バイバイ」と小さく手を振る。
喜びでいっぱいの結果になった区切りがまた1つ。
「やったー」と心から安堵したそのほんの数時間後には、新しいご縁が繋がって何だか怒涛の1週間だった。
今は動き続けた方がいいよ、ということなのかな。
いずれにせよ、また誰かの成長に身近な立場となって関わることができることに感謝する。
「いつか私も誰かの人生を豊かにできるようになりたいです。」
今年もまた、そんな言葉が書かれたお手紙を受け取ることができたこと。
それは希望の進路に合格してくれた、ということ以上に嬉しいことで、何度も読み返してしまう。
沢山の会話をしながら積み重ねてきた時間が、誰かのこれからの人生を支えてくれる一部になってくれたら、それは何よりも幸せなことだ。
この瞬間は、私にとっても最大のご褒美の時間だと毎年思っている。
しばらくバタバタとしていて、楽器に触れられていなかったから、今日は少しゆっくりめに指を動かして、バッハだけで終えておく。
少しだけ慌ただしさに気を取られ、あっちにこっちに行きがちだった心が、スーっと整っていく。
本当は新しい曲の音作りも進めたい気持ちはあるけれど、今は無理しない方がいいかな、と電源を切る。
波のようなものに、あまり抗おうとしないこと。
嬉しいことがあったら思いっきり喜んで、心配なことがあったら心配しつつもその流れを信頼して、疲れている時は無理をせずに休む。
そして、その時に自分が力を使うべきところにしっかりと力を集中させる。
自分の感覚に嘘をつかずに、行動をしてみる。
そうやってできる限り素直に、シンプルな状態でいることで、タイミングや縁といったものが味方についてくれるようになる、ということは、この何年かの実体験を通して学んだ大切なことの1つだ。
意外と、全部大丈夫なんだ、と。
そう思うのは結構覚悟が必要だけど、本当に大切なものはちゃんと残ってくれるし、結果的には周囲の喜びの総量も増えていくように思う。
さっきの猫ちゃんはどこに行ったのだろう。
いつものお散歩コースにある神社の境内をキョロキョロと見回すと、佇んでいる姿を発見した。
建物の色と一体化している。
穏やかな秋の午後に手を合わせた後、もう一度小さく「バイバイ」と手を振ってみる。
今年もきっとあっという間だ。