アイスクリームと幸せな時間
ちょっと肌寒いくらいひんやりと涼しいカフェ。
長袖のワンピースに着替えて来て良かったと思う。
お昼前から夜まではいつも混んでいるので、朝早起きして向かう。
温かいミルクココアを注文する。
「涼しい所で飲む温かいココアって美味しいですよね」とにこやかに話しかけられて、確かにそうなのかもと頷く。
奥の方の席に座って、Rollbahnのノートを開く。
スッと気持ちが切り替わって不思議と前向きになるのがありがたい。
なんだか少し思考過多になっているなと思う時、パッと外に出て静かなカフェに入ることの効果は絶大だと思う。
今年も秋から始まる受験に向けて準備を進めている生徒さん達が多い。
「締切」が日常の中に増えてくる。
毎年のこととは言え、一定の「焦り」の空気が漂ってくることは自然現象のようなものだ。
意識して深く呼吸するようにする。
本人にとってもサポートする側にとっても「しなきゃいけない」物事が増えてくる期間。
「しなきゃいけない」という言葉は、その場の空気を少し歪ませてしまう時があるので、普段はあまり使わないように気を付けているけれど、ある程度は仕方ない時もある。
頑張ることが悪いというのではない。
ただ、不自然なエネルギーの持って行き方になりかねないことにだけは少し注意する。
「先生、溶ける前に食べてね」
今年は頻繁にアイスクリームのプレゼントがやってくる。
自分で買いに行くことはめったにないので何だか新鮮で、幸せな時間が生まれる。
例年より明らかに忙しくはあるけれど、そんな中でも一人一人とおしゃべりしながら日々感じていることを掬い上げていく時間は、私自身にとっても気付きの多い時間になっている。
受験が終わってから何年経っても「あの年は本当に楽しかった」と言ってくれる元生徒さん達がいること。
昔一緒に読んだ作品、書いた文章、話した内容のことを詳細に覚えてくれていること。
それらは指標になっていて、些末な問題に迷ったり悩んだりすることがあっても最終的にそこに戻ってくるルートを見失わないようにすれば、結果として全部大丈夫な地点へと着地していくんだろうと思う。
いつの間にか店内が満席になっていることに気付く。
そろそろ帰宅して、今日の授業の準備をしよう。
今夜は5分でもショパンを練習できたらいいな。
音楽に関しては、今年は何かに間に合わせようとかをあまり考えないことにした。
定期的に振り返る時間を取ってみると、確実に自分が望んだ方向へと物事が向かっていっているのが分かる。
戻りたいと思うようなタイミングが1つも思い浮かばないというのは、その表れなのかもしれない。
過程の細かな部分に執着せず、自分の感覚と流れを信用すること。
その感覚に不純物が混じってしまっていることに気付いたら、丁寧に取り除くこと。
異様に暑いこの夏のことも「なんだかんだ楽しかったなぁ」と振り返ることになるんだろう。