ゆっくり自然に叶っていく
「あちらの角の時計の所で、押して帰ってください」
手渡された白い袋を持って「あちらの角」の方向に歩いていくと、確かに時計がある。
ええと、この袋に押してみるといいよってことなのかな。
なんだか面白いコミュニケーションだなとぼんやり思いながら、絵柄も向きも確認せずに、そこにあったスタンプをとりあえず押してみる。
わぁ、きれい。
インクが服やカバンに付かないように気を付けて、袋を持ったまま建物の扉を開ける。
古くなってスムーズには動かない扉。
最後までは閉まらなくなっているみたいなので、隙間をギリギリまで小さくできているかを慎重に確認する。
あの日、願いを叶えてもらってから8年くらい経つのかな。
どこかに行ったから願いが叶うとか、そういうことはあんまり信じないタイプなのだけど、
そういうことがあるっていうことを信じざるを得ないくらいちょっとあり得ない展開が起こった日だった。
切羽詰まったような思いだったのが伝わったのか、それとも、気まぐれ的に後押ししてくれたのか。
あるいは、いたずらだったのか。
人生ってこんなこともあるんだと、その時は多分喜んではいたと思う。
今になってみれば、それが喜ばしいことだったのかはよく分からない。
月日が経ってみないと物事の良し悪しなんて判断できないし、解釈はその時の自分に合わせて変化していくものなんだろう。
赤と白のちりめん生地の花が2つ。
目に入った瞬間、時が止まった。
割と早い段階で汚れてきて、どこかのタイミングで処分したはずなんだけど、それがいつだったのか、もう忘れてしまった。
懐かしい、っていうのとも違う。
きっと当時は何かに縋りたい気持ちも多かれ少なかれあったのだと思うけど、今はそういう訳でもない。
だから、当然のように手に取ってお金を払った自分に少しだけびっくりしたくらい。
戻ってくるのね。
インクが乾いていることを確認してから先ほどの袋に入れて、カバンにしまっておく。
とりあえず高島屋まで歩いてDiorのマキシマイザーを買おう。
それから駅で本屋さんに寄って、新幹線に乗ろう。
またしばらく頑張れそう。
意識して休む時間を確保して、少しでも仮眠できる時は眠る。
それだけで身体の状態が大分良くなり、それと連動して心の安定度合いもより強くなってきたと思う。
「自分が行動した方が早い」と思って動いてしまいがちなところがあるけれど、そういうのをしばらくは意識的に我慢するようにする。
行動のベースに何らかの不安が隠れている時、望んでいる展開は起きにくいことが多くて、むしろ逆効果になることも多々ある。
休むことができるというのは、自分の持っている力を信じられていることとイコールなんだろうと思う。
大丈夫。
きっと今度はゆっくり自然に叶っていく。