境界を飛び越えた先に
雨が降り始めたみたい。
窓に面した席でチャイラテをグルグルかき混ぜる。
ピリッとしたスパイスの香りで意識が少しクリアになってくる。
ガラスを一枚隔てた向こう側には傘をさしている人々が行き来している。
座れて良かった。
誰かがパソコンで作業する音が響いている空間。
日曜日の午後だから、ガヤガヤしているだろうなと思っていたけれど、満席の店内は予想以上に静かで、穏やかな時間が流れている。
家を出る前にとりあえずカバンに入れておいたレターセットを取り出して、便箋を選ぶ。
自分が身を置く環境を変えることを決めることは、自然と自分の身に予想外のことが起こっていくことを受け容れることでもあるんだと思う。
「変えない」ことを選択していた時よりも、不思議な出会いの数は明らかに多くなる。
それは、全部が全部「素晴らしい」と言えるかと言われると分からない部分もあるけれど、
プレゼントのような時間や出会いが増えるのは、何かしら法則的なものが働いているんだろうなと思う。
もちろん、これまでも毎日好きなことをしながら生活することができていたことにありがたい思いでいっぱいだったけど、
また1つ違った世界へ行ったような感覚。
同じ場所にいても、新たな良さ、魅力に気付くようになる。
もともと割と多かったけど、知らない人に話しかけられる頻度が増える。
以前から多かれ少なかれ繋がりがあった人達からの連絡がいきなり増える。
必要な情報がすごいタイミングで目の前に現れる。
バイオリニストYUKIさんのライブへ。
最前列の真ん中の席で、ドキドキしっぱなしの3時間。
ここ数年は生の演奏を聴くのが、自分も演奏するコンサートで他の出演者の方の演奏を聴く時くらいだったので、ものすごく新鮮で楽しい時間だった。
音楽という表現の形で受け取る人の思いは、沢山のエネルギーとインスピレーションを与えてくれる。
魔法みたいだと思う。
生活が変化する時、「変わらないもの」が自分を支えてくれていることにも改めて気付く。
授業やカウンセリングを受け続けてくれる生徒さん達。
一緒に問題を解きながらおしゃべりし、学ぶことで生まれる楽しさを共有し、その子の中にある物の見方の数を増やしていく時間は、
私のベースでありこれからも一番大切にしていくべきものだと思う。
最近はいわゆる中高生の学校の勉強のフォローや受験対策だけでなく、大人の方からドイツ語のレッスンやカウンセリングを依頼してもらえる機会も増えた。
そういう方向性で領域が広がっていく形になるといいな、と以前から漠然と考えてはいたけれど、現実に実現していく道筋は見えていなかった。
だから、勝手にそういう方向に状況が動いていくことに驚く。
雨が穏やかになっている。
昔から大切にしていたレターセットが役に立って良かった。
帰ったらショパンとムソルグスキーを弾こう。
久しぶりにラヴェルさんのコンチェルトも。