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大丈夫?と聞かれると涙が出てしまう不思議


1990年生まれの私は今年30歳になった。


27歳を過ぎたくらいから、転職活動をしたのもあって、自分の歳を答えるたびに

「あぁ、長い間お勤めだったんですね」とか

「27歳…。なるほど。」

「結構いってるんですね」

という反応があって

あ、社会的には27過ぎたら「結構いってる人」なんだと肌で感じた。

だから気持ち的には自分はすでに実年齢以上生きているような気分だったので
誕生日を超えた頃にはまだ30か、と思った。


私は個人で活動している作家さんのもとで制作を通し学ばせてもらっていた。出来高制のアルバイトだった。
自分も美術家になりたかった一心で働いていた。

しかし現実は仕事に夢中になりすぎていた。
自分の制作にまわす金銭、時間、体力
気力も無くなっていた。

このままではだめだ、自分の制作ができるよう固定収入を得ないと、とハローワークへ初めて行った時の気持ちは今でも鮮明だ。
ハローワークまでの道も足が重かった。
私は何か避けていたもの、ここには来ないと思っていた所に、来てしまったと思っていた。

仕事を探すにあたって今の仕事内容、給料などを伝えなければならなかった。
話していくとどんどん窓口の人の眉間にシワが寄っていくのがわかる。

「雇用保険は?」
「? 保険とかはなにもないので、ないと思います。」

絶句されてしまった。
絶句した人を見たのはその時が初めてだった。

「よく、働いてこれましたね。」

そう言われたとき、優しい言葉で包んだ鋭利なカッターで、ずぶぶと刺されていくような痛みがあった。
と、同時に涙が出そうにもなった。


小学生のときにカッターで思いきり深く手を切ってしまったことがあった。

「あ、コレ思いっきりいった。」

切ったとき、傷口を直視できなかった。
自分の力がどのくらい強くカッターを扱っていたかがわかっていたし、そこからどのくらい深い傷なのか、本能的なヤバさを感じた。

「血が止まらなくなっちゃった!流してくる!🤟」
と、周りにびっくりさせないように笑いながら流しまで1人で小走りで出ていった。
しばらくして先生が
「大丈夫?」と心配してきてくれた。

「血が止まらなくて。へへ」
私はへらへら笑っていた。
私はヤバい時ほどヘラヘラしてしまう、直したいクセがある。
流しに渾々と流れる血の量を見たのか、先生は一気に青ざめてハンカチでギュッと傷を押さえつけ、
「保健室!!」と引っ張られた。

「心臓より高く手をあげて!!押さえて!」
と早歩きで先生の後についていった。
授業中の教室を横目に、静かな廊下の、ツヤツヤした床を眺めながら、必死に先生のあとについていった。

そのまま近くの総合病院へ、先生が車を出して連れて行ってくれた。

病院で縫うか聞かれたが、針と糸が怖くて首を振った。
そしたら傷口をカパッと開け、ドスの効いた色の何かを塗り込まれた。

その瞬間激痛が全身を走り、
暴れる私の体を、学校の先生2人と、看護師さんら何人か総出で押さえつけた。

あんなにも泣き叫んだのは、生まれてきた時以来なんじゃないかと子供ながらにも思った。
切った瞬間よりも傷を消毒することの方がとても痛くて、堪え難かった。


実年齢に伴ってない非正規で働いてきた経歴から、ふわふわした生き方をしているだらしのない人。
客観的で冷静な判断を垣間見られたようで、それはすごく真っ当で現実的だと思った。

自分で選んでやった仕事だからいいのだ。
が、こういう気持ちになるのは健全ではないなとも感じた。
時間が足りなくて仕事場で寝泊りをしてもお金はコンビニのご飯に消えてしまったが、毎日わくわくしていた。
作ることと、生活することのお金のバランスがまるでわかっていない。

ハローワークの人の
「よく、働いてこれましたね。」の中には
「大丈夫?」が含んでいるようにも聞こえた。

ハローワークの窓口で、もはや私は泣きそうになっていた。

転んだり、いじめられたり、思春期のころに起こる様々なことの中で「大丈夫?」と聞かれるのが1番苦手だった。
それがとどめを刺してくる感じがした。
恥ずかしさと痛さがあっても1人ならなんともない。「やっちゃったな」「こんなこともあるか」と思う程度ですむ。

そこに第三者が来て「大丈夫?」と言われると、「あ、やばいのかな?わたし」と一気に不安になって、恥ずかしさと痛さがさらに悲観を帯びて目に写り、もうダメかも。と不安がピークになって涙が出る。
大勢に見守られながら、水で傷を洗うことが苦痛すぎる。

だからなのか、泣いてる子に寄ってたかって「どうしたの?」「大丈夫?」っていうやりとりができなかった。
そういう場面を見るたびに、ほっといてやれよって思っていた。
心配のコミュニケーションって難しいな。
考えすぎなのかな。

多分私はハローワークの窓口でへらへらしていたと思う。
どういう流れでそうなったか覚えてないが、パン屋の求人をいくつかもらって、帰って一通り眺めて全部捨てた。

30歳。
女性なら妊娠適齢期も考えると、結婚も、子供も、そうなると仕事もそのほかもろもろ、
「大丈夫?」な時期なんだろうな。
この歳って。

#30歳 #大丈夫 #変な癖 #美術家 #ハローワーク #転職 #エッセイ

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