【旅行記】マルセイユ1 屋根裏
バルセロナからバスで8時間、国境を越えてフランスのマルセイユに来た。特に目的は無く、耳覚えのある街だから、そして陸路での移動で無難な位置にあったから選んだ街で、次の目的地までの繋ぎのつもりだった。自身初めてのフランスがマルセイユからスタートするとは思っていなかった。人生は予測できないものだ。
バルセロナの宿は半地下だったが、マルセイユの宿は打って変わり屋根裏だった。2フロアのメゾネットタイプで、上が寝室、下階がシャワーとトイレ、ロッカーだった。女性のみの4人部屋で、すでに二人の先客がいた。彼女たちとベッド一つ挟んで反対側の場所を私は使うことにした。
下階の洗面所を確認しに降りると、中には家庭的な普通の洗面台とシャワー室が並んでいた。トイレは別だ。なるほど。こういう宿に比べたら、確かにバルセロナのホステルは「収容所」だったかもしれない。バルセロナでのシャワーは公共プールのような武骨な流し場で、たまたま鉢合った女性が「このホステルは酷い。まるで強制収容所!」と愚痴っていた。部屋も18人部屋だったし、宿というより軍のキャンプに近かったかもしれない。今なら彼女の言葉が少し理解できる。
窓が天井の一か所しかないこの部屋は、到着したばかりの私には暑く感じられた。細い坂道を、スーツケースを押しながら登ってきたのだ。部屋には家庭用のエアコンが設置されていたが、リモコンが無く動いていない。フロントに言えば貰えるのだろうか。それとも本当に暑い日にしか稼働させないのか。
先客の女性二人も暑いのか、部屋着か下着か分からないような布地の少ない恰好をしていた。いや、下着かな。あれはブラジャーだ。片方は寝そべりながら本を読み、もう片方はタブレットを見ながら時折けらけらと笑っている。動画でも見ているのだろう。あのタブレットは私と同じ、Surface Proだ。おそろいを持っている人は初めて見た。なんとなくだが、彼女は北米人のような気がする。
荷物を広げ、バルセロナで洗ったものの生乾きだったシャツをベッドの桟にかける。ここは二段ベッドではないから、掛けられる架構は少なかった。スニーカーを脱いで、部屋用のサンダルに履き替える。ホステルのWi-Fiパスワードを入れて携帯が無事にWi-Fiに繋がると、ひと心地ついた。ちゃんと安定したWi-Fiのようだ。タブレットも起こして繋ぐと、Lightroomがクルクルとバルセロナで撮った数百枚の写真の同期をはじめた。
ベッドに腰掛けてみると、ほのかに風を感じられた。天窓に、コカ・コーラのペットボトルが挟んであるのが見えた。それが無いと、閉まってくるのか。先住者の彼女たちの工夫だろう。やっぱり彼女、アメリカ人な気がする。
のんびりバルセロナの写真整理でも始めようかと思ったが、時計を見たら午後9時になるところだった。夕暮れの街でも写真に撮りながら、夕飯を食べに行くべきだろう。トリップアドバイザーで「cheap eats」のフィルターをかけて検索したら、手ごろなピザ店が近くにあった。近くて安くて早いもの。バス旅で疲れている今日は、それくらいで良い。軽く宿周辺を歩いて、街の空気を把握するくらいだ。
貴重品だけを小さなポーチに移し、もう一度スニーカーに履き替えた。くつろいでいる二人に気を使って足音を立てないようにそっと動いたが、古めかしい板張りの床と階段は、ギシリ、ギシリとどうしても音が出た。これは夜遅くに起きたりすると、迷惑をかけるかもしれない。気を付けよう。
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